運命
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「クーフーリン、隣いい?」
「あぁ、マスターか。別に構わねぇぜ」
お昼をすぎたカルデアの食堂。1人何をするでもなくぼうっと頬杖をついて座っていたランサーのクーフーリン、その隣に立香は腰を下ろした。
クーフーリンは1度こちらに視線をやったきり、どこか別の場所を見つめてる。
普段のアニキらしい姿からは珍しい彼の姿に立香もそちらに視線をやった。
視線の先に居たのは、つい先日カルデアに召喚されたナマエという男と、ナマエに顔を除きこまれ慌てている風磨小太郎の2人。
「あ〜、またやってるんだ」
彼が来てから見慣れた光景に、立香は苦笑を漏らした。
ナマエはケルト勢のサーヴァントで、クーフーリンとは生前から交流があったのだという。召喚された直後、気配を感じたと召喚室にやってきたクーフーリン達一同に驚いたのはまだ記憶に新しい。
そんなナマエにはケルト勢にしては珍しい、変わった好みがある。美貌や強さでは無い、ナマエが好いてるもの、それは他人の“目”だった。
目にはその人の人生そのものが映ると話すナマエは人の目を見ることを好いていて、立香自身もピカピカの綺麗な目だと褒められ、よく覗き込まれている。
特に赤眼を好いているらしい彼は、ああやってよく小太郎や巴御前達の目を覗き込んでいた。賢王、英雄王どちらものギルガメッシュの目まで覗き込んでいた時には、さすがに焦ったが。
そんなこんなで見慣れた光景なのだが、それを見つめるクーフーリンの様子に、立香は1つの考えが思い当たる。
「もしかして嫉妬してる?」
そう聞いた立香に、クーフーリンは苦笑を浮かべた。
クーフーリンとナマエは生前からの付き合いとは聞いているのだが、如何せん距離が近いのと雰囲気が他とは違うのだ。
2人とも常に一緒にいる訳でもなく、個々人で好きに活動しているはずなのに、お互いがどこにいるのかそれとなく分かっているし、ナマエは大抵クーフーリン達の誰かの側で寝ている。
極めつけはクーフーリンのナマエを見る目がもう甘い。それほどたくさんの恋愛経験をしたという訳でもない立香でも分かるほどだ。
それでも2人は別に恋人とかそういう関係ではないのだと言うのだから驚きだ。
スカサハやフェルグスに聞いてもあの2人は特別なのだと笑ってきちんとは答えてくれないし、メイヴに至ってはどこか悟ったような笑みを浮かべて遠くを見ていた。
そんな2人だからこそ立香はクーフーリンが、ナマエが風磨小太郎の目を至近距離で覗き込んでいることに嫉妬でもしているのではないかと思ったのだが、そうでは無いらしい。
違ぇよと否定され、頭を撫でられてしまった。
「そもそも嫉妬なんてする必要ねぇしな。そんなもんしなくても、あいつの1番は俺だからな」
「へ?」
どういう事か聞こうとした瞬間、タイミングが良いのか悪いのか、風磨小太郎の目を見るのに満足したらしいナマエが戻ってきた。
「クーただいまぁ、ってあれ?こんにちは、マスター」
ニコニコと上機嫌な顔でこちらへ来たナマエが、当たり前のようにクーフーリンの膝へ座るのを見て、立香は思わず真顔になる。
クーフーリンもそれを当たり前に受け入れているのだから、ツッコミを入れるだけ無駄なのを立香は知っているのだ。
「おう、風磨の目はどうだったよ」
「うん!やっぱり赤眼は良いね。こたろーくんの目は真っ暗な中でじっと隠れてて、それでキリッとした綺麗な目なんだよ!」
興奮気味に話すナマエとそれを聞くクーフーリンの2人の図は、傍から見たら親子か年の離れた兄弟のそれだ。
だがふと、ナマエは唐突にクーフーリンの頬を両手で挟むと、そのまま思い切り顔を近づける。
鼻先が触れ合うほどの至近距離、特に変わらずクーフーリンはナマエの好きにさせている。その変わりにそばで見ている立香の顔が赤くなってしまう。
「うん、やっぱりクーの目が1番好き」
どこかうっとりとした様子で笑うナマエに、クーフーリンもそうかよと満更でもないような笑みを浮かべナマエの頭を緩やかに撫でる。
「そんじゃあ俺らはちっとばかしシュミレーターに顔出してくるからよ、またなマスター」
「またね〜」
そう言って2人は何事もなかったかのように立ち上がると、ヒラヒラと手を振りながら食堂を出ていってしまった。
ぽつんと1人残された立香は、すっかり冷めきってしまったお茶を一気に飲み干すと、盛大に息を吐いた。
「あれで付き合ってないとか嘘だよ……」
ぽつりとこぼした言葉は誰に拾われるでもなく、立香は飛び切り熱くて渋いお茶をいれるために席を立った。