運命
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サーヴァントキャスター、真名をナマエは、つい先日カルデアに召喚された歌姫である。
アマデウスやサリエリと同じ時代を歌手として生きたナマエは、けれど決して彼ら生前の知り合いに会おうとすることはなかった。
それどころか、あのアマデウスでさえ美しいと認めたその歌声も披露することなく、はや1週間が経とうとしていた。
決して歌や音楽が嫌いになったわけでない。
ナマエにとってそれは呼吸と同じで嫌いになることなどできるわけがなく。
かと言ってアマデウスやサリエリのことを嫌いになったわけでもない。
アマデウスの奏でる音は美しく、サリエリには何かと気にかけてもらっていた。
だからこそ、後ろめたかった。
嘘に満ちた人生だった。多くの人々を騙し続け、そして最後には耐えきれなくなって逃げ出した。
だから生前の人達に会うのが恐かった。申し訳なかった。
「私は、歌姫などではありません」
どこからか聞き付けたのか、ナマエを歌姫だと、歌を聴かせて欲しいのだとやってきたジャック、ナーサリー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタリリィ、バニヤンの4人の幼いサーヴァントにナマエは苦しげな笑みを浮かべてそれを断った。
「私は男……いいえ、その性すら捨てて人々を騙し続けた、ただの嘘吐きだから。私に歌を歌う資格はないんです」
「それはおかしいわ!」
ごめんなさいと続こうとした言葉は、ナーサリーの否定に遮られて、口から出ることはなかった。
「絵本を読むことに資格がいらないように、歌を歌うことにだって資格はいらないわ」
「お母さんにも資格はいらないよ!」
「はい、プレゼントを貰うことにもいりません」
「ホットケーキを食べるのにもね」
口々に意見を言っては、いらないよねー!と楽しそうに笑い合うその様子に、ナマエは口を噤む。
「私たちは貴方が何者だろうと気にしないわ。ただ貴方の歌が聴きたいの」
ただただ純粋無垢に歌を求めるその瞳は、かつて母の笑顔を見たくて歌った貧しくも温かな日々を思い起こさせる。
「……なら、1曲だけ」
観客は人理のために戦う幼くも大きな英霊4名。
ナマエは静かに息を吸う。
それは歌姫としてではない、ただ1人の歌を愛するものの歌だった。
確かに耳に届くその歌声に、サリエリはピタリと動きを止めた。
それはサリエリが恋した歌声だった。
惹かれるがままに歌の聴こえる方へと進めば、幼いサーヴァント達へ歌うナマエの姿。
サリエリにとってきっと、ナマエの性別など関係ないのだと、改めて思う。
だって男と知ってなお、こんなにも惹かれている。
ナマエの歌声が好きだ。
ナマエが思うがままに歌う姿が好きだ。
ナマエが好きだ。
殺意に焼かれる瞳に焼き付けるように、悪意を囁く声をかき消すように。
いつか自分が奏でる音と、ナマエの歌声が交わることを心の奥底で願いながら、サリエリは今はただ静かにその歌声に耳をすませた。