運命
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ナマエは、インド出身の英雄の1人である。
カルナと昔からの友人らしい彼がカルデアに召喚された時、カルナは嬉々として彼の手を引き、カルデア内部の案内をした。
その日からカルナとナマエはよく一緒に行動をしている。
ナマエはどちらかというとだらしがない方で、そんなナマエへカルナが世話を焼いているのがよく見かけられていた。
カルナは言葉が足りない。それ故に勘違いされることが多々ある彼は、元々の交友関係が狭い。だからこそマスターは、生前からの友人であるというカルナとナマエの関係を、微笑ましく見守っている。
けれど、そうは思はない者も存在していた。
「カルナ〜」
カルデアの談話室。ソファーに座り読書をしていたカルナは、その呼び声に顔を上げた。
呼び声の主であるナマエは無遠慮に、ソファーに座るカルナの太腿に頭を預けて横になれば、カルナは気にしたふうもなく本を閉じると、「どうした」と自分の腿に乗った友人の頭をゆるりと撫でた。
その手つきも、見つめる瞳も、どこまでも優しく柔らかだ。
ナマエはそれを甘受しながら、ぶすりと頬を膨らませる。
「アルジュナがさ〜、もっとシャキッとしろ!とかカルナに甘えるな!とか言って叱ってくんの〜」
どうやら不機嫌な理由は、カルナの異父兄弟であるアルジュナにあるらしい。
アルジュナは何かとナマエに厳しかった。
アルジュナとナマエは生前カルナを通じて良くも悪くも交流があり、そのせいかアルジュナはよくナマエの事を叱っていた。
真面目で優等生タイプのアルジュナは、同郷で緩い性格のナマエへ何かと厳しい。
けれどアルジュナのその厳しさは、嫌悪からくるものでは無く、例えるならばだらしのない息子を叱る母親の様なものであった。だからこそ、ナマエも苦手意識はあれど、アルジュナを嫌ってはいなかった。
そんな2人の関係を知っているからこそ、カルナはナマエの愚痴にただ柔らかく微笑む。
「仕方ないな、アルジュナに少し話しておこう」
「頼んだ〜」
カルナの返事にナマエは満足気に頷くと、唐突に手を伸ばし、カルナの髪を撫でた。
「カルナの髪ってさぁ、真っ白くてふわふわで、アレみたい。この前マスターとちっこい子達が作ってたあの甘いヤツ」
「あぁ、綿飴だったか」
つい先日、カルデアの食堂でマスターや子供サーヴァントが一部の甘いもの好きな者達と共に作っていた甘味が綿飴だった。
カルナの髪を見て、それを思い出したらしいナマエは何が楽しいのかくすくすと笑えば、釣られてカルナもゆるりと笑った。
しかしそんな穏やかな空間も長くは続かない。
「こんな所にいたのかナマエ!!」
噂をすればなんとやら
談話室のドアが開いたと思えば、そこに立っていたのは目を釣り上げ怒るアルジュナだった。
「げっ!アルジュナ……お、俺、用事があったんだった!またね!」
慌てて起き上がれば、アルジュナの怒鳴り声を後に、そそくさと霊体化して逃げた。
後に残されたのは、ため息をつくアルジュナと、先程までの重さと温もりの無くなった腿に目を落とすカルナだけだった。
「……カルナ、貴様もあれに甘すぎる」
ギラりと自分を睨みつけるアルジュナに、カルナは表情一つ変えず、見つめ返した。
「そういうお前は、ナマエに厳しすぎる」
「あれは厳しいくらいが丁度いい。貴様の甘さは、ナマエを堕落させるだけだ」
カルナとアルジュナは、生前の複雑な関係からカルデアに召喚された今でもよく競い合っていた。けれどそれは殺し殺されの様な争いではなく、純粋な力比べの様なものだった。
しかし、今この空間に流れるピリピリとしたものは、常のそれとは違う。
カルナはことナマエに関しては、誰にも譲らないのだ。
「……止めましょう。こんな事をしていても、ただ不毛なだけだ」
この睨み合いに先に終止符を打ったのはアルジュナだった。
それだけ言うと、くるりと部屋を後にする。
全くもって、本当に不毛で迷惑な話だ。
それもこれも、ゆるゆるでしっかりしないナマエが悪いと、アルジュナは今頃逃亡先で呑気に笑っているであろうナマエに再度怒りを覚えるのみ。
カルナは本当にどこまでもナマエに甘い。
あの砂糖を煮詰めたような視線は、決して友に向けるものでは無い。
けれどその自分の抱える感情に、カルナ自身が気づいていないのだから、余計にタチが悪いのだ。
アルジュナは再度ため息をついた。
何処までも無自覚で鈍感な、因縁である異父兄弟の存在に、痛むはずのない胃がキリリと痛んだ気がした。