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「あんなの、ハッタリに決まってる!」
冬木市に住む老夫婦の家の一室。そこがライダー陣営の隠れ家だ。
ぼふんっとベッドに拳を叩きつけるウェイバーをチラリと一瞥すると、ゲームタイトルが印刷されたTシャツとジーパンという如何にも現代風な格好に着替えたライダーがぼりぼりと悩ましげに頭をかいた。
「だがな、坊主。あのセイバーはそう易々と嘘をつくようなタイプではないと思うぞ。特にあの場面ではな」
「はぁ?ならこの聖杯戦争自体が破綻してる事になるじゃないか!そんなの監督役の教会も他の冬木御三家も黙ってるわけないだろ」
鼻息荒く、そう詰め寄る己がマスターの額をデコピン1つで物理的に大人しくさせるとライダーは腕を組み僅かに唸り声をあげたかと思えば、ここ日本にやってきてから大ハマりしている戦略ゲームの電源ボタンへ手を伸ばした。
「おい!そんなことしてる場合じゃないだろ!」
ここ数日ですっかり聞き慣れた電子音とゲーム画面にウェイバーがツッコむも、そうは言ってもなぁ、とライダーはコントローラーを握りもうすっかりとゲームをやる気姿勢になってしまっていた。
ウェイバー・ベルベットは第四次聖杯戦争に参加しているマスター達の中で、最も若く未熟なマスターだった。
それは年齢的な意味でもあり、また魔術師としての能力に関してもそうで、そんな彼がこの聖杯戦争に参加し、今も尚生き残る事が出来ているのは本来ケイネスが使用するはずであった召喚の儀式用に用意されていた聖遺物を手にすることが出来た偶然と、それにより召喚されたサーヴァント征服王イスカンダルとの相性が良かったという幸運、その2点にあった。
けれど逆を言うならば、彼にはその2点しかない。
ただ周りの奴らを、師であるケイネスを見返したい。ただその思いで突発的に参戦したウェイバーには本格的な戦いの知識を得る機会などそもそもにしてなかったのだ。
だからこそ、戦略面で頼りにしているはずのライダーがすっかりと現代のゲームに夢中になってしまっている様にウェイバーはため息を着くと肩を落とした。
そんな1人部屋の隅で項垂れている己がマスターの姿をライダーはちらりと見ると、視線はゲーム画面のままに口を開いた。
「そう項垂れるな。今は考えたとてどうしようもなかろう」
「そうは言ったって……」
ピコピコと軽い電子音をさせて、画面の中の兵士達がライダーの指示通りに動いている。
敵陣地を侵略していくその様は、彼のかつての姿を想像させた。
「セイバーの言ったことが真実ならば、小僧の言った通りこの聖杯戦争はそもそもで破綻していることになる。
それならばセイバー達の目的は吾らと戦う事では無い。意味が無い。マスターがどうかは分からんがな、あのセイバーは無用な争いを好むような男ではないだろう」
この戦いの要である聖杯が機能していないならば、ライダーの言う通りセイバー陣営が戦う意味が無い。
ならばセイバー陣営の目的は何なのか。聖杯戦争の中止なのか、そもそも何故聖杯が汚染されたのか。その聖杯の話をアーチャー含めあの時自分達に話したのか。
「さっきも言ったがな、セイバーはあの時話した事を吾らに対する誠意だと言った。少なくともあの言葉を吾は嘘だとは思えん」
「なら、あいつの言ったことは本当だって事か?」
「そうであるなら、次その話が出る時は信じるに足る証拠を用意してくるだろうな。聖杯戦争の中止を促すにしろ、同盟を求めてくるにしろ」
ライダーから出た同盟の言葉にウェイバーは首を傾げる。セイバーの言葉を真実として彼らのの目的を聖杯戦争の中止とするならばわざわざ同盟を組む必要性があるのか。
「まぁ、皆が皆はいそうですか、と中止を受け入れるわけではないだろうな。特にあのアーチャーは」
ウェイバーの疑問を感じとったのか、そう言ったライダーの言葉に確かに傲慢を絵に書いたようなあの黄金眩いアーチャーが素直に言う事を聞くとも思えず、あぁ、と苦々しい顔で納得した。
「つまるところ今の吾達が特段何か変える必要はないという事だ。変わらずにこの戦いを勝ち抜けば良い。
あの話が真実ならば、向こうから何かしら接触があるだろう。アーチャーよりもこちらの方が話が通じると思っているだろうからな」
そう話を締めくくってライダーはウェイバーに向かって予備のコントローラーを投げつける。
慌ててキャッチしたウェイバーにライダーは二カリと笑みを浮かべた。
「ほれ、早く準備せんか。1人でもなかなかに楽しいが、やはり2人でやってこそだな」
まだまだ言いたいことも、考えたいこともあるというのにバシバシと己の隣を叩いて急かすライダーの姿にウェイバーはあぁもう!とコントローラーを握った。
こうなったライダーは相手をしなければ面倒くさい事になるのを、ここ数日共に過ごしたウェイバーは学んだのだ。
「……っ!!今日こそ叩きのめしてやるからな!」
威勢の良い声にライダーが受けて立とう、と笑う。
画面の中でピコンと音を立てて、2体目のプレイヤーキャラクターが動いていた。