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「ひとつ、よろしいですか」
アサシンに水を差され、解散の空気が漂う中リアムは静かに口を開いた。
「今回の聖杯戦争、その要である聖杯が汚染されている可能性がある、という情報を私達は得ています」
途端、空気がひりついた。
一気に重くなった空気に驚きに悲鳴を上げかけたウェイバーは慌てて口を手で塞ぐ。
アイリスフィールは焦ったようにリアムに視線を投げかけるが、ただ彼は、少なくともアイリスフィールの感じられる限りでは冷静に2人の王を見つめていた。
「その情報というのは」
「詳しく話せません。ですが、少なくともある程度の信用に足るには十分な筋のものでした」
リアムの言葉にライダーは眉間に皺を寄せると、深く溜め息を吐いた。
「仮にだ、セイバーよ。それを我らが信じたとしてこの場で反感をかい、同時に責められる可能性を考慮できないお前ではないだろう。なぜ今わざわざそれを口にした」
アインツベルンの古城であるこの場は確かにセイバー達の拠点であり、その点においては地の利があるだろうが、それも先程見たライダーの宝具を前には些末な差だろう。
「まさか、雑種如きがこの我に対し勝算があるとでも言うまいな」
アーチャーの紅玉が細まると、背後に波紋が揺らめく。一触即発の状態であるにも関わらずセイバーはと穏やかに首を振った。
「私にも英雄としての意地がありますから、勝てない、とは言いません。ですが、勝算の有る無しで私は今、口を開いた訳ではありません」
「では、なんのつもりだ」
アーチャーの問にリアムはゆるりと口角を上げ答えた。
「私という王から、貴方々2人の王への誠意です」
この聖杯戦争そのものを揺るがしかねない、聖杯のバグ。
それに気が付いていて黙っているということは不誠実に他ならないと、リアムはそう言っているのだ。
その答えにアーチャーは一瞬目を見開いたと思えば肩を震わせ、それは次第に大笑いへと変わっていく。
「フハハハ、貴様、馬鹿真面目にも程があるだろう!だが、まぁ、良い」
ふっとその笑みを収めたアーチャーの紅玉が真っ直ぐにセイバーを見る。
「此度はそれに免じて特別に見逃してやる。が、次はない」
その言葉を最後に、アーチャーは一瞬にして姿を消した。
「ライダー……」
豪胆なライダーと違い、若く一般的な魔術師であるウェイバーはこの敵の魔術師の本拠地で戦う事も、そして真偽の定かではない情報に対する判断をする事も出来ずに己がサーヴァントを見た。それをライダーも分かっている。
「うむ、これは今考えてもしょうがない。こちらも一旦戻るとするか」
いまだに混乱の中にいるであろうウェイバーを担ぎ上げると、乱雑に戦車へと放り投げ自身も戦車へと乗り込んだ。
「ではな、セイバー!いい宴だった!」
「えぇ、ありがとうございました」
ハァッ!と声を1つ上げ、戦車が夜の闇を駆けて行くのを見送る。
その姿が完全に遠のいて見えなくなると、そこでようやくアイリスフィールは安堵の息を吐いた。
「大丈夫ですか、アイリスフィール」
アイリスフィールの背を撫でながら、そっと手を差し出す。
アイリスフィールはその手を取るとゆっくりと立ち上がった。
「その、良かったの?話してしまって……」
聖杯の話を切嗣の指示なく話して良かったのか、という事だろう。
あぁ、と頷くとアイリスフィールを安心させるようにリアムは微笑みを向けた。
「切嗣とは事前に話して合ったのです。
こちらの性質上、切嗣と私が別れて行動することが多々ある。その時に、他の陣営と交渉の余地があった場合はこちらの判断である程度話して構わない、と」
だからといって、まさかこんなタイミングになるとは思っていませんでしたが、とリアムが苦笑を浮かべる。
自分の知らない間にそんな話をしていたのかと、アイリスフィールは目を見開いた。
何より、切嗣がリアムの判断に任せる、と考え話したことがアイリスフィールが思うよりずっと2人の信頼関係が築かれているとこに驚くと同時に嬉しいような、何故だかほんの少しだけ寂しくなるような気持ちになって、アイリスフィールもそうね、と眉を下げた。
「ライダーは大胆な所がありますが、その実思慮深くもあるのでしょう。
加えてマスターの彼もまだ若く経験も浅い。
彼らにとって敵陣地であるこの場所でなら、この場は一旦引いてこちらの話を考えてくれると思いましたから。
アーチャーに関しては賭けではありましたが、彼はマスターとコンテナ港で見た限り相性があまり良くないようでしたし、万が一戦闘になっても令呪を使って引いてくれる可能性がある。そうなればこちらにとっては願ったり叶ったりで、最悪の可能性は無さそうでしたから」
あの急な展開と短い時間の中で相手を見てそこまで考えていたのかと、アイリスフィールは感嘆の息を吐いた。
柔和な様に見えて、かつて王だった彼は人を見る目にも長けていたのだろう。
「けれどやっぱり賭けは賭けでしたので、切嗣には怒られてしまうかもしれませんね」
おどけたようにそう笑うリアムにアイリスフィールも笑みを浮かべた。
「ふふ、そうなったら助け舟を出すわね」
「おや、それは頼もしい」
柔らかな笑みを浮かべながら、2人の影が古城へと消えていく。
突然の慌ただしい夜は、そうして嵐のように過ぎ去っていった。