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突如として変わった景色、アインツベルンの古城は辺り一面を砂に覆われた荒野へ、こちらを見下ろす光は青白い月光から眩しく熱を帯びた陽光へ。
頬を撫でる乾いた風にアイリスフィールは目を見開いた。
「これは、固有結界……!?」
術者の心象風景を具現化する魔術。魔法に最も近い魔術とされ、魔術協会では禁術にまでカテゴライズされる魔術師達にとっての最大奥義。
それをキャスターならまだしもライダーが、それもこの大規模の固有結界を行使してみせた事にアイリスフィールは驚きを隠せなかった。
だが、驚きはそれだけに留まらない。背後から聞こえ始める金属音。リアムはその音に聞き覚えがあった。鎧や武器を見に纏った者の行進する音。それも1人や2人に留まらない、何百、いや何万という規模。
皆がそちらに視線をやる中ただ1人、この固有結界の主たるライダーだけが真正面を見つめ続け高らかに語った。
「この世界、この景観を形にできるのはこれが我ら全員の心象であるからさ」
そう言うは簡単だが、それを成すことが出来る者などこの世に幾人もいないだろう。
「見よ我が無双の軍勢を、彼等との絆こそ我が至宝、我が王道!イスカンダルたる余が最強宝具、『王の軍勢』なり!」
彼等が王の言葉に軍勢から雄叫びが上がる。
大胆かつ破天荒、まさしく征服王の名に相応しい宝具の姿。
「こいつら、一騎一騎がサーヴァントだ」
ライダーのマスターであるウェイバーも、宝具は初めて見たのだろう。
そもそもこんな大規模宝具では魔力消費も激しく使用する場面を選ぶ。
これがただの雑兵の軍であったのならばどれ程良かったかと、背後の軍勢にリアムは思わず苦笑を浮かべた。本来であれば一兵士に収まらぬような者、下手すればライダー本人よりも武術に優れているような者まで散見される。
それもこれも、一重にライダーのカリスマ性が為せる技なのだろう。
「久しいな、相棒」
ライダーの元へ逞しい見事な黒毛の馬が歩み寄る。彼の生前からの愛馬、ブケファラスだろうか。
ブケファラスの背に股がった彼は己が軍勢を振り返る。
「王とは、誰よりも鮮烈に生き諸人を魅せる姿を指す言葉。すべての勇者の羨望を束ねその道標として立つ者こそが、王。
故に、王とは孤高にあらず。その偉志すべての臣民の志の総算たるが故に」
然り!然り!然り!
ライダーが語る、王としての在り方。
彼の背後に集う軍勢が、己が持つ武器を天へと掲げその言葉に呼応する。
「さぁて、では始めるか、アサシンよ」
どこまでも堂々としたその光景に、アサシンは思わず後ずさった。
「蹂躙せよおぉぉぉぉぉ!!!」
王の号令1つ、先頭を駆けるのはブケファラスに跨るライダー。雄叫びと砂煙を上げてそれに続く軍勢。
馬上から振り下ろされた切っ先に血を上げながらアサシンの体が崩れ倒れる。
天から振り落ちる槍が幾人かのアサシンの背を貫く。
それは正しく蹂躙だった。
聖杯戦争に参加する時に覚悟していたとはいえ、あまりに大きな力と一方的な戦場の光景にアイリスフィールは怯えを隠せずに背を震わせる。そんな彼女の背をリアムはそっと摩ると、自分にとってはかつて見覚えのある光景に目を細めた。
最後の1人が切り裂かれ、百の貌を持つ影の群は砂塵と血飛沫を共にしてその蹂躙に消滅した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
高らかに上がった勝鬨は確かに鼓膜を震わせたが、次の瞬間にはその大勢の声も、荒野も、陽光も、幻が如くアサシンと共に姿を消して視界に映ったのは、月光に照らされた元のアインツベルンの古城だった。
確かにそこであったはずの戦闘も景色も面影すら感じられないその一瞬の終わり様に、ウェイバーは思わず辺りを見渡した。
「お互い、言いたい事も言い尽くしたよな。
今宵はこの辺でお開きとしようか」
まるで何事もなかったかのようにそう静かに口を開いて、ライダーは酒器を置くとそうおもむろに立ち上がったのだった。