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それは突然だった。
空から響く車輪の動く音と魔力。アインツベルンの古城の窓からは、戦車を駆け空からこちらへと向かうその姿が確認できた。
敵陣へと乗り込むにしては、あまりに堂々としたそれに僅かばかりに気を削がれながらもアイリスフィールと共にリアムは音のした方、正面玄関へと急いだ。
そこに居たのは、やはりいつか港のコンテナ群で真名を隠すことなく名乗り上げたあの豪快な王。
「ライダー」
やって来たリアムにおう!と笑みを浮かべてライダーは片手を上げた。
敵陣へと来たにしてはやはり堂々たるその態度。王だからこそのそれかとも思ったが、それにしては格好もあの日見た戦装束ではなく、現代に染まりきったTシャツにズボンというラフな格好に、片手には武器ではなく樽を抱えているその姿。
あまりに敵意も戦意も感じられないそれに、リアムはアイリスフィールを後ろに庇いつつもほんの少し警戒を緩めた。
「戦いに来た、という訳ではなさそうですね」
「あぁ。ほら、見てわからんか」
そう言って片手に抱えていた樽を持ち上げた。
「一献来たに決まっておろう」
ニッと白い歯を見せて笑うその後ろで、ライダーのマスターであろう青年は遠い目をしていた。
バキンッと音を立ててライダーが豪快に樽の蓋を叩き割ると、芳醇な香りがふわりと漂った。
規則正しく整えられ庭の、白い花が月光の光を浴びて淡く光っているその中心。
白いタイルの上に腰を落ち着けながら、2騎の英霊が向かい合っている。
柄杓で樽から直接酒を掬うと、ライダーはこちらに対する毒味の意志を兼ねているのだろう、先に口付け飲み干した。
「聖杯は、相応しき者の手に渡る運命にあるという。何も見極めをつけるためならば、血を流すには及ばない。英霊同士、お互いの格に納得が言ったなら」
言いながら呑み終わった柄杓でまた酒を掬うとそれを今度はリアムへと差し出す。
「それで自ずと答えは出る」
素直にそれを受け取ると、リアムもまた柄杓に口をつけ注がれたそれを飲み干した。
2人から距離を置いた場所、リアムの後ろでアイリスフィールは警戒しつつその様子を見つめていた。向かいでは同じようにライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットがどこか不満げにライダーの背を見つめていた。
ランサー陣営の偵察に着いている為この場にいない切嗣へも、既に連絡済みで通信機越しに彼も現状を随時把握している。
「不要な血を流さずにすみということであればそれに越したことはありませんが、ならば話し合いで決めるということですか」
「いわばこれは聖杯戦争ならぬ、聖杯問答。どちらがより聖杯の王に相応しい器か酒杯に問えば詳らかになるというものよ」
聖杯問答
それがどういったものであれ、ライダー側から戦闘ではなく話し合いに来たというのであれば、自分達にとってこれは好機でしかない。
巡ってきたまたとない絶好の機会は、けれど唐突に場の空気が変わった事で一気に緊張を孕んだ。
「戯れもそこまでにしておけ、雑種」
なんの前触れもなくそう不遜に告げて2人の前に姿を表したのは、黄金色のアーチャーだった。
突然の彼の出現に警戒を強めながら、ライダーに目を向けた。
「アーチャーにも声をかけていたのですか」
リアムからの問いかけにおう、と頷いたライダーにそっと警戒を緩める。
「いやぁ、な?街で此奴の姿を見かけたんで誘うだけ誘っておいたのさ」
遅かったでは無いか、金ピカ。という彼の行動力には最初の名乗りしかり、驚かされてばかりいるように思うなとリアムは苦笑を漏らした。
アーチャーの持つ固有スキル、単独行動を使っているのかリアムが探る範囲ではアーチャーのマスターが居るであろう気配は感じられない。アーチャーの態度からともすればマスターに何の報告もせずにここに来たという可能性すらある。
ライダーの今の格好しかり、街にいたというアーチャーしかり、存分に現代を謳歌しているらしい彼らは何とまぁ、人の上に立つ王らしく何処であろうと、誰の召喚に応じようと、我が道を行くらしい。
「よもやこんな鬱陶しい場所を王の宴に選ぶとは」
アーチャーの紅玉が冷やかに辺りを見回す。それだけの仕草にさえアイリスフィールの肩がびくりと震える。こちらを嵌めたのかとウェイバーに視線を向けるが彼も予想外だったようで、勢いよく手を振っていた。
「俺にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる」
そう言われてなお笑みを崩さずに、ライダーは酒を注いだ柄杓をアーチャーへ差し出すが、アーチャーはその香りだけで安酒と評し顔を顰めた。
「この土地の市場で仕入れたうちじゃ、こいつは中々の逸品だぞ」
「そう思うのはお前が本当の酒を知らぬからだ」
柄杓を返したアーチャーはそう言って空に手をかざす。
途端手元が金色に輝くと、そこから同じく黄金に輝く酒器が現れ手に収まると、各々にそれを寄越した。
「これで王としての格付けは決まったようなものであろう」
「生憎聖杯と酒器とは違う」
尊大な態度で当たり前のように言うアーチャーにライダーも不遜な態度でそう返す。
「まず貴様がどれ程の大望を聖杯に託すのか、それを聞かせてもらわねば始まらん」
そうして3基の英霊、いずれも異なる時代、異なる土地で国を治め人々を導いてきた王達による聖杯問答が今宵始まりを告げた。