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『先日行方意不明になった――ちゃん9歳の身元はいまだ見つかっておらず、警察は冬木市連続児童誘拐事件との関連性も視野に入れ───』
キャスターの言葉を最後まで聞くことなく、舞弥は全員が集まったことを確認するとテレビの画面を消した。
切嗣達セイバー陣営の拠点である古城の一室、アイリスフィールと切嗣の他、正式に同盟を組んだバーサーカーのマスターである雁夜の姿があった。
ここ最近連日報じられるこの事件は、冬木市に住む人々を恐怖に陥れるには十分な話題で、出歩く人、特に幼い子供達の声は街中からすっかり遠ざかってしまっている。
「教会から各陣営へ通達があった」
切嗣の言葉に、雁夜が頷く。
キャスター陣営が起こしている猟奇的な事件は連日止むことなく、ニュースはどこもその話題で持ちきりだった。
これは本来秘匿されるべき聖杯戦争、はては魔術や神秘を一般の目に露出させかねない出来事であり、聖杯戦争の続行すら危うくさせていた。
これに危機感を覚えた監督役の言峰璃正は聖杯戦争の一時中断、及びキャスター陣営の討伐を各陣営へと要請したのだ。そして討伐を果たしたマスターには過去の聖杯戦争で使い残された令呪を褒賞として寄贈すると。
「一般人への被害の多さから、ランサー陣営へとの交渉より、キャスター陣営への対応を優先した方が良いかと」
「そうね。不安要素の多い今の聖杯へサーヴァントを返すのはあまり良いと言えないけど、連日の事件を聞く限りキャスターとそのマスターが私達の話にそう簡単に応じるとも思えないわ」
「ですが、他の陣営がキャスターを狙っている今が、我々がもっとも動きやすい状況でもあると言えます」
教会からの通達通りキャスター討伐を優先的に考えたいというリアムとアイリスフィールの2人に、舞弥がそう発言した。
「舞弥の言う通りだ。だが、それは通常の聖杯戦争での話だ。僕達の目的はあくまで今回の聖杯戦争を中断し、聖杯が正常に機能するかの確認と破壊だ」
「じゃあ、やっぱり先にキャスターをどうにかするのか」
そう聞く雁夜に切嗣はあぁ、と頷く。
「今の聖杯には、情報が確かなものなら最初に敗退したアサシン1基のみが注がれている事になる。けど、アサシンのマスターは教会関係者でもある言峰綺礼だ、あまり信用ならない」
冬木御三家、特に遠坂と関係の深い遠坂時臣の弟子である言峰綺礼の名前に雁夜はぐっと眉間に皺を寄せた。
雁夜はあの神父が得意ではなかった。元々魔術師という者は苦手というより嫌悪の対象であったが、あの男はまた別の薄気味悪さを抱かせるのだ。
「聖杯に注がれた魂が7基のうち半数以下なら、まだ魔力不足で聖杯が作動する可能性は低いと思うわ」
「 僕と舞弥が並行してランサー陣営を監視する。
キャスターの討伐は雁夜、アイリ、セイバーの3人に任せるが.......率直に言えば、雁夜は戦力外と考えた方がいいだろうな」
切嗣の言葉に雁夜が抗議しようと顔を上げるが、それより早くアイリスフィールが切嗣へ同意を返した。
「雁夜、貴方の魔術回路は間桐臓硯の蟲の魔力で無理矢理に強化されていたのよ?
私の魔術でも全快させるのは無理。今の状態じゃ貴方の体力で魔力消費の多いバーサーカーを活動させるのは、多く見積っても2回が限界よ。それ以上は命の保証ができない」
真剣なアイリスフィールの声音と視線に射抜かれて、雁夜は俯く。
蟲に侵されていた身体はバーサーカーを呼ぶ度にその多量な魔力消費によって激痛を伴い、見た目も、身体機能も衰えていく一方だったものを、アイリスフィールの魔術で蟲を取り除き治療することで、一先ず必要最低限の一般的な生活がおくれるまでは回復したのだ。
それなのにここでまたバーサーカーを呼べば、せっかく回復した身体に負担をかけることになり、また逆戻りする羽目になるだろうことは明らかだった。
「桜のためにも、今貴方が優先すべきことは自身の体調を万全の状態にまで出来るだけ戻す事です」
「だが、いざとなれば君にも戦ってもらうことになる。その為に、ここぞという時にまでバーサーカーは温存しておいた方がいい」
落ち込んでいた雁夜へリアムと切嗣がそう声をかけた事で、雁夜は顔を上げ頷いた。
「キャスターの能力が完全には知れてない以上、細かい作戦は立てられない。
今後の行動パターンをいくつか予想して、大まかにだがこちらもいくつかの作戦を決めていく」
聖杯戦争という特殊な場、魔術師だけではなくサーヴァントという特殊な相手。
キャスターの凶行を止めるため、他陣営との交渉を有利にするための話し合いは、夜半まで続いた。