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少女が1人泣いていた。
ここは一体どこなのだろうか、誰かの家なのだろうか。薄暗くて、嫌な臭いのするその場所で、少女は身を縮こませて壁と棚の隙間に隠れていた。
「おーい、どこいったぁ?」
軽薄そうな男の声は、まるで隠れんぼでもしているかのような様子で少女を探していた。
これが本当に隠れんぼだったらどれほど良かっただろうか。
子供の誘拐事件が多いから、あんまり遅くまで遊んじゃだめよ。なんて母親の注意を忘れて公園で遊び呆けていた自分が悪かったのだと、どんなに責めても時間が巻き戻る事は無い。
ギシギシと床板が鳴る音が近づいて、思わず漏れそうになる声を必死に両手で塞いでギュッと目をつぶる。
神様、どうか助けてください。
もう約束破ったりしません。嫌いな野菜も残さず食べます。お母さんとお父さんの言うこともちゃんと聞きます。だから、お家に返してください。
ギシギシ、ギシギシ、音が近づく。
実際は10秒にも満たないようなその時間は、少女にとって1分にも1時間にも感じられた。
ギシ、ギシ、近づいた足音が遠ざかっていってそのうち完全に聞こえなくなった。
そこで少女はようやくはっと短く息を吐いて、そっと物陰から顔を覗かせた。
辺りはシンと静まり返っていて、人の姿は見当たらない。
逃げなければ
今のうちにこの家から、この家に住む怪物から。
少女は物音をたてないように立ち上がって、震える足を叱責しながらどうにか歩き出す。
薄暗い廊下のその先に、光の差すドアが見えた。
やっぱり辺りには誰もいない。今のうちに、あのドアを開けて外に出よう。
それから走って家に帰って、お母さんに約束破ってごめんなさいって謝ろう。
早る気持ちを抑えて、音を立てないようにそっとドアノブへ手をかけた。
やっと、助かるんだ!
「みーつっけた!」
「え」
グンっと思い切り体が後ろへ引っ張られて、ドアノブから手が外れる。
ドアがどんどん遠のいて、逆戻り。
蛸みたいな
烏賊みたいな
何かが体にまとわりついて
腕が変な音をたてて変な方向へ曲がってて
痛い
怖い
絶叫
絶叫
「やっぱ旦那のやり方はCOOLだよ!でも、最初に見せて貰った時の方が新鮮さはあったかな、次はもう少し趣向を変えてやってみるか」
「ええ、ええ。リュウノスケのその探究心、実に素晴らしい!」
男が、違う、怪物2人が、絶叫を上げ腕を、足を、あらぬ方向に曲げられる少女を見て愉しそうに会話している。
少女の頭の中に、ふと蘇る昨日母親に読んでもらった大好きな絵本。
鎧を着た王子様が、怪物に囚われたお姫様を助けに行く話。
ギョロリ
飛び出た2つの目が少女を捉えて、ぐにゃりと歪む。
少女を助けに来る神様も、王子様も、ここにはいなかった。
息絶えた、少女だったものを見て青年は笑った。
頭の中は新しい芸術作品と、次の死についてでいっぱいだった。
「前に作るのに失敗したランプシェード、旦那の手を借りたら出来るかもしれないな」
自分が呼び出した相棒が手に持つ本を見てそう考える。
あぁ、でも最近は旦那の意向で子供ばかり狙っているから、もしかしたら素材が足りないかも。まぁ、それならそれで違うのを作ればいい。
ウキウキと胸を弾ませて、青年、雨生龍之介は少女だったものを掴んで歩き出した。