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「聖杯戦争を中止することはできない」
聖杯戦争の監督役を務める冬木教会、その神父である言峰璃正はそう断じた。
「この聖杯戦争の要の聖杯に問題があるかもしれないんだぞ
中止、とまではいかなくても、確認する必要はあるんじゃないのか」
切嗣の提案に、それでも璃正が揺らぐことはなく。彼は堂々と、切嗣に視線を投げかける。
「それはあくまで“ かもしれない”という話だ。
貴方のそれが、聖杯の在処を探る為の嘘である、という可能性もある。
この聖杯戦争の監督役として、中立の立場をとっている我々が、一陣営の意を鵜呑みにする訳にはいかない」
「これはこちら1人の意見ではなく、間桐雁夜も賛同している。
この御三家の内2つが今回の聖杯戦争において何らかの対応がある事を望んでいる訳だがそれについては」
これは御三家のアインツベルン、真桐、その代表であるアイリスフィール、もとい衛宮切嗣と間桐雁夜の提案だ。
けれど切嗣は、内心これで冬木教会が動く事は無いだろうと確信している。
璃正は自分が中立の立場である、とは言っているが、それはあくまで冬木の監督役としての発言だ。
けれど言峰璃正自身は違う。
この聖杯戦争に参加する折に、各々の大まかな人柄、人物関係、能力等は舞弥と共に探りを入れている。
彼が遠坂の家とより親密な関係にあることを、切嗣は知っていた。
その遠坂は、今回の件に関与していない。
それに何より、切嗣と雁夜はあくまで御三家から選出されただけのマスターなのだ。
実質的に間桐の家で永らく力を握っていたのは間桐臓硯だ。
しかし、あくまで表向きの当主は間桐鶴野ということになっている。
聖杯に参加しているのが雁夜であったとしても、最終的な決定権は鶴野にあるのだ。
そしてそれは、切嗣達にも当てはまる。否、鶴野を説得するより余程、こちらの方が根深く難しい問題になってくるだろう事は明らかだった。そもそも臓硯が死んだ今なら、簡単に鶴野を頷かせることが出来る。
今回の聖杯戦争を中止するということは、アインツベルンが前回の聖杯戦争で不正を行った事を認めるようなものだ。
そんな事を、あのアハト翁が許す筈もない。
「あくまで君達は、御三家から選出されたマスターであって、御三家の意見そのものの発言ではない。
これ以上何かあるというならば、こちらもそれなりに対処をする必要が出てくるが」
切嗣の思った通り、璃正が、冬木教会が動く事はなかった。
それどころか、これ以上の長居はこちらが不利にさせられるだけだろう。
『どうしますか、切嗣』
「監督役が最初から、そう簡単に動くと思ってなかったさ」
大人しく教会を出た切嗣へ、霊体化したまま常に傍に居たリアムがそのままに話しかけてくるのを、切嗣も音を発さずに返した。
「ようは監督役が動かざるを得ない状況を作ればいい。他のマスターと接触して、こちら側に賛同させる。それが無理でも疑念を抱かせて、監督役に問い詰めさせれば、監督役は動かざるおえなくなる。
御三家の方も間桐の家は間桐臓硯を喪った今、雁夜とアイリが鶴野の説得に向かっている、殆ど臓硯の傀儡だった鶴野にそこまでの決断力はない。問題はアインツベルンだが、アインツベルンが黙りを決め込むか、或いはこちらに何かしらの手段を講じれば、この話が真実味を帯びて、遠坂も動くだろうね」
一瞬、傀儡という言葉にリアムの気配が揺らいだ気がしたが、それは直ぐに霧散して『では、先ずはどの陣営を』と平時と変わらぬ声が頭に響く。
「セイバーの指、それと前の奇襲の件があるランサー陣営が妥当だろう」
それに加えて、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという男は、今回の聖杯戦争に置いて御三家を除けばもっとも名の知れた男だ。
しかも魔術塔でロードと言われているだけの実力も知識もある。
ケイネスが聖杯に疑念を抱くか、こちら側につけば、彼と関係のあるライダー陣営のマスター、ウェイバー・ベルベットとのやり取りも格段にしやすくなる。
問題は、まだ素性の知れていないキャスター陣営なのだが、ほんの数日後、彼らに対する令呪をかけた討伐依頼が出される事は、まだ知る由もなかったのだ。