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アイリスフィール、舞弥、雁夜。
切嗣によって集められた3人は、彼の口から出たその衝撃的な言葉に目を見開いた。
「聖杯が、願望機として役目を果たす可能性が低いって、どういうことだよ.......!」
「無理に動くと、体に触るわ」
ベッドから身を乗り出した雁夜をアイリスフィールが宥めるが、そんな彼女もまたその言葉に困惑を隠せないでいた。
それもそのはず、聖杯を守るための殻、「聖杯の器」として存在するアイリスフィールはそれを知らなかったのだ。聖杯が正しく機能しないというのであれば、当主、 ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、通称アハト翁から聞かされるはずだ。けれど当主はそんな事は何一つ口にしていなかった。それどころか当主自身知っているそぶりでさえ見受けられていないのだ。
「間桐臓硯の書室を調べて見つけたものだ」
そう言って3人の前に晒されたのは、古い書物だった。
遡ること今から約60年前。
つまり第三次聖杯戦争でそれは起きた。いや、喚ばれたと言った方が正しいのだろうか。
当主である アハト翁、及びアイツベルン家は優れた魔術を持っている。
人造人間の鋳造、治癒魔術、高度な錬金術、どれも優れた素晴らしい魔術であったが、そのどれもが戦闘向きではなかった。
聖杯戦争に参加しているアインツベルンにとって、戦闘魔術を不向きとすることは重大な問題だったのだ。
そして至った答えは至極単純なもの。自分達が戦闘に向かないのならば、より強力なサーヴァントを召喚すれば良い、と。
この戦いにおいて最優とされるセイバー
近づかずに相手を射殺すことができるアーチャー
平均して全ての能力値が高いとされるランサー
強力な幻想種や兵器に騎乗している可能性があるライダー
同じ魔術師で相性が良いであろうキャスター
狂気に身を置きつつもそれ故に強力なバーサーカー
気配遮断で相手を的確に暗殺できるアサシン
けれどアハト翁が目をつけたのは、最強と呼ばれる三騎士でも、かと言って四騎士でもない。
八騎め。7つなクラスに収まらない、エクストラクラス。
彼は冬木における聖杯戦争のルールを破り、切り札としてそれを喚んだのだ。
エクストラクラス『復讐者(アヴェンジャー)』真名を『アンリマユ』
「エクストラクラス、アヴェンジャーなんてそんな話、1度も.......!
それに、第3次聖杯戦争でアインツベルンは4日目、1番最初に敗退してるわ」
「そこがアインツベルンにとっての誤算だったんだろう。
切り札として召喚したはいいものの、サーヴァントの問題かルール破りの枷か知らないが、アイリの言う通りアインツベルンは早々に敗退した。
ルールを破ってまで参戦した聖杯戦争で早々に負けた。なんて、プライドが許さないだろう」
アイリは目を伏せる。アハト翁がアヴェンジャーの事を黙っていたのはそういう事なのだろう。
舞弥はちらりとアイリに目を見やって、「では」と口を開いた。
「アヴェンジャーというイレギュラーなサーヴァントの出現によって聖杯は願望機としてよ役割を失ったということですか」
舞弥の疑問に切嗣はいや、と首を振った。
「エクストラクラスなイレギュラーなサーヴァントの影響、というよりも召喚したサーヴァントがアンリマユであったという事に問題があった」
「けど、そのアンリマユってサーヴァントは、アヴェンジャーっていうエクストラクラスではあったけど、1番最初に負けたんだろ?
なら、そいつ自身は弱かったんじゃないのか」
先日、コンテナ港で名乗りを上げたイスカンダルや、雁夜のサーヴァントであるランスロット。彼ら英雄の事は誰であれ、多少差はあれど名前くらいは聞いたことがあるという人は多いだろう。
けれど、アイリスフィールや舞弥は分からないが、少なくとも雁夜はアンリマユという名前について馴染みがなかった。
「そもそも、アンリマユは英雄じゃない。
だからこそ、アヴェンジャーなんだろうけど」
『アンリマユ』人類最古の善悪二元論といわれるゾロアスター教に伝わる悪魔の王。
だが、アインツベルンが、いやそもそもただのヒトがそんな悪神を喚べるのだろうか。
可能性は限りなく0に近い。例え喚べたとて、そんなものがサーヴァントととしての器に収まる筈もない。
ならば、アインツベルンが喚んだアンリマユは何なのか。
永い時を生き、腐っても優秀な魔術師であった間桐臓硯が導いた答えが、「この世全ての悪であれ」と願われた、もしくはそういう風に存在した誰かがアンリマユとして召喚された、という事だった。
聖杯は7騎の英霊の魂を燃料とし、願いを叶える。その1番最初に入った燃料が 「この世全ての悪であれ」そう願われ、そう在ったサーヴァントの魂だった場合、はたして聖杯は正しく願望機としての機能を果たすのか、答えは否だろう。
そしてその確信に近い可能性に気付いたのは、間桐臓硯ただ1人。アンリマユを召喚したアハト翁でさえ、その可能性にまで至らなかったのだろう。
「間桐臓硯の考えは筋が通っている。少なくとも、アヴェンジャークラスという異物を飲み込んだ事には違いない。それに、前回の聖杯戦争では勝者がいない。聖杯は破壊されたらしいが、大聖杯の中にはまだアンリマユの魂が留まっている可能性がある
聖杯が願いを歪めるなら、僕は聖杯を破壊する」
アイリスフィールは息を飲んだ。聖杯を破壊するというならば、聖杯の器である自分にもどんな影響が出るのか分からない。
けれど、何よりも、誰よりも愛する夫がそう決めたなら、アイリスフィールのやる事は1つだった。
「そうね、それならまず教会に行くべきかしらね!
それから、他の参加者達にも事情を話さないと」
アイリスフィールを舞弥は心配げに見つめる。
けれど、アイリスフィールは気丈に微笑んだ。
だってアイリスフィールは人類の救済を、正義の味方を目指す彼の妻なのだから。