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射し込んだ陽光に少女、間桐桜は瞼を震わせると、そろりと目を覚ました。
見たことの無い部屋、清潔なベッド。カーテンの隙間から漏れる光は柔らかで、あの蟲蔵とはまったく違う部屋の様子に、桜はぱちぱちと目を瞬かせた。
「おや、目が覚めましたか」
かけられた声にびくりと肩が震える。けれどその声の主を視界に映すと、目を見開いた。
「あの時の.......えと、セイバー、さん」
「覚えててくれましたか」
その人はいつか桜が道案内をした男の人。何故彼がここに居るのか、そしてここは何処なのか。混乱する頭に最後に見た記憶が蘇る。
それは蟲蔵に閉じ込められ、蟲に蹂躙されいく桜へと手を伸ばし掬いあげた雁夜の姿。
「あの、おじさんは.......それに、ここはあの、一体.......」
きゅるるる。
何処なのかと聞こうとした声を遮るように、桜の薄い腹が鳴き声をあげた。
慌てて腹を抑えたがクスクスと耳に聞こえる微笑ましげな笑い声に、桜は顔を赤くさせる。
「お腹が空くのは生きてる証ですから。そうですね、まだ夕飯には早いですから林檎でも剥きましょうか。それから話をしましょう」
シャリシャリと林檎の皮を剥く音。
「はい、どうぞ」
コトリと差し出された皿の中、桜がうさぎの形に剥かれたリンゴを一つ手に取り口を付けたのを見届け、ナマエは桜に何が起きたのかを桜が理解できるように噛み砕いて話し始めた。
桜はあの日、雁夜の手によって蟲蔵から救い出されたということ。
桜の身体は現在、治療中だということ。
蟲蔵には、二度と行かなくていいこと。
もうお爺様、間桐臓硯はいないこと。
あの間桐の家において絶対的家主である臓硯がもう居ないという事実に、桜はひどく驚いた。
それもあの、自分と同じく臓硯に脅えていた雁夜によって、だ。
「あの、おじさんは.......」
不安げな桜を安心させるように、リアムは笑って頷いた。
「雁夜は少し頑張りすぎてしまったみたいで、今は休んでいます。様子を見て、後で会いに行きましょうか」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
「あの、ありがとう、ございます」
「ふふっ、その言葉、どうぞ雁夜にあげてください」
そう言ったリアムに、桜はこくりと頷く。
早く雁夜おじさんに会いたかった。
──────────
コンコン、と扉をノックする。
返事はない。
己のマスターである衛宮切嗣は間桐臓硯を倒した後、冬木の御三家として有り続けた間桐家の資料を読み漁っていた。それはより今回の聖杯戦争での勝ちを確かにするためであり、聖杯が正しく願望機として願いを果たす事が出来るかの最終確認のためであった。
リアムは仕方なしに一言声をかけると、扉を開けた。
どこか薄暗く、所狭しと壁に並ぶぎっしりと本の詰まった本棚は、どこか圧迫感を感じさせる、そんな間桐臓硯の書斎で切嗣は1冊の手記に目を落としていた。
それは間桐臓硯が冬木の御三家である間桐家当主として、その永い命故に幾度も経験してきた聖杯戦争に関する出来事をまとめていたものであった。
その中の1つの頁で、切嗣の手は止まっていた。
前回の聖杯戦争に関してのとある出来事。
「.......切嗣?」
桜が目を覚ました報告をしようと思っていたのだが、切嗣の様子が妙である事に気づいたリアムは訝しげに声をかける。
数拍おいて、切嗣はセイバー、と己を呼んだ。
そして続いた彼の言葉に、リアムは目を見開いた。
「僕は、この聖杯戦争を、聖杯を破壊する」
どこか独り言じみたそれは、確かな覚悟と僅かな絶望、そして諦念を滲ませていた。