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実家というものは雁夜にとっての地獄だった。
その地獄に今も囚われ続けている少女を、桜を救うために廊下を駆ける。目指すは地下にある蟲蔵。けれど聞こえ始めたざわめくような鋭い羽音に、雁夜は足を止めた。
「……ッ来たか」
「なんだ雁夜、もう帰ってきたのか」
夜の暗闇の中、どこか嘲笑を含んで間桐臓硯は雁夜の前に姿を現した。
「サーヴァントの1騎も潰せずにノコノコ帰ってくるとは、やはりお前には荷が重かったか。その様子では桜を解放するなど、夢のまた夢。
あの小娘には胎盤としての役割を果たしてもらおう」
「臓硯ッッ!!!」
吼えた雁夜に呼応するようにバーサーカーが剣を振るうが、一斉に襲い来た翅刃虫に邪魔をされ刃が臓硯に届くことはなかった。
「儂に反抗するつもりか、雁夜。今ならまだ見逃してやるぞ?」
「俺はもう、逃げるのは辞めたんだ!お前からも、自分からも!」
青いなぁ、雁夜。そう言う臓硯の目はどこまでも雁夜を嘲っている。それは身内に向けられるようなものでは無い。
その間にも何十という翅刃虫が現れては襲い来る。その度にバーサーカーが叩きのめしているが、それでも次から次に来る蟲の相手をしていては臓硯本人へ攻撃する隙がない。
例え宝具で臓硯ごと一気に薙ぎ払ったとしても雁夜の体が持つ可能性は低い。けれどこのままでも直ぐに魔力不足を起こしてしまう。まさにジリ貧というような状態。
(でも、今はこれでいい!)
バーサーカーが大きく剣を振るい、周囲にいた翅刃虫を全て切り落とす。
大振りなその動きに隙をついて臓硯が新たな蟲を繰り出そうとしたその瞬間、臓硯の胸を背後から剣が貫いた。
「ぐっ!貴様、セイバー、か」
バーサーカーと雁夜を囮に、背後から近づき臓硯を刺し貫く。
けれど、臓硯の顔がニヤリと歪に歪んだ。
「儂が貴様の存在に気付かぬとでも」
臓硯は視虫を通し、既に屋敷に忍び込んだセイバーの存在には気付いていた。
蟲で肉体を構築している臓硯は核となる蟲、または霊体を直接攻撃されない限りそれが死へ繋がる事は無い。
だからこそ、敢えてセイバーに己の背後をとることを許したのだ。セイバーを殺し、死体を利用するために。
セイバーの周りを無数の翅刃虫が取り囲む。
けれどセイバーが剣を抜くことは無い。
「……私の目的は、貴方を殺す事ではありません」
セイバーのその言葉と動かぬその行動に、違和感を覚えた直後だった。
パンッという発砲音と己の核を貫く衝撃に、臓硯は目を見開いた。
「き、さま……ッ!」
「私の目的は、あくまで貴方を油断させ、ここに繋ぎ止めておくことですから」
崩れ行く体。
求めていた「不老不死」が何の期待も抱いていなかった男とサーヴァントの手によって失われていく。
真っ直ぐにこちらを見つめる雁夜の目。
自分は何故、不老不死など求めるようになったのだろうか、と。
ふとそんな疑問が頭に一瞬過ぎって、けれど理想を忘れた怪物は、何を思い出せることも無くその永い永い生を終えたのだった。