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「……つまり俺から、御三家である間桐の情報を得ようってわけか」
「それも目的のひとつですね」
睨みつけるような雁夜の視線にも、リアムは笑みを崩すことはない。
「陰湿で陰険、桜ちゃんまで巻き込もうとしてそうまでして勝ちたいのか、聖杯が欲しいのか!だから、魔術師っていう連中は昔から大嫌いなんだっ!」
半ば叫ぶような嫌悪と棘のある声。
間桐雁夜の人生において、魔術師というものは酷い憎悪の対象であった。その存在にいつだって雁夜の人生はめちゃくちゃにされてきたのだ。
「間桐雁夜、貴方が魔術師という存在を嫌悪している事は理解しました。
けれど、勘違いをしないでください」
リアムの視線が真っ直ぐに雁夜へ向けられ、思わず身じろぐ。
敵陣のサーヴァント、嫌悪すべき魔術師の仲間。それなのにリアムの眼はあまりにも今まで出会い見てきたそれらと違った。
「少なくとも私は聖杯戦争においてあの少女、桜を巻き込もうと思い接触したわけではありません」
断言するその言い方に、雁夜は信じられるか!と吠えるように反論する。
リアムは雁夜の言葉にそうでしょうね。と緩やかに返した。
「そう簡単に信じられることではないでしょう。でも、そうですね……私、年の離れた弟と妹がいるんです」
穏やかな笑みを浮かべて、語る。
「半分ちの繋がらない私を、それでも兄と慕ってくれた、大切な子達。
桜を見ていると、妹を思い出すんです。少し、引っ込み思案な所があって、大人しい子でした」
かつての幼い兄妹達を思い出しているのか、視線がふっと下に落ちた。
「だから、初めて桜を見た時、放っては置けませんでした 。
もちろん、サーヴァントとして呼ばれた身ですから、優先すべきは別にあります。
それでも、救えるのなら救いたいと思うのが、私というかつて兄だった者として、人理に刻まれた英霊としての気持ちです」
落ちた視線がまた雁夜を見つめる。
力強いそれに射抜かれて、何も言えなくなってしまう。
敵のはずなのに、憎い魔術師の使い魔のはずなのに。
それでもその目は、かつて誰かの為に、何かの為に、戦ってきた人理の英霊のもの。
「貴方は魔術師という存在を嫌悪したままでいい。こちらを警戒したままでいい。
そのままで、こちらを利用しませんか」
「何を……」
「冬木の御三家である間桐の情報を得ることができ、尚且つ貴方の願い……間桐桜を救うことで、貴方は聖杯を得る必要がなくなる。そうすれば、私達はバーサーカーと戦う必要もなくなる。
こちらにもそれだけの利益があり、貴方は貴方の願いである間桐桜を救うことが出来る、利害の一致とは言えませんか」
これらが、私が間桐桜を救うことに対して貴方に提示出来る情報の全てです。
個人的な感情、そして聖杯戦争に参加する一陣営としての利益。
その2つの情報は雁夜の考えを拒絶から考慮へと変える。
「私は少し、席を外しましょう。
何かあれば声をかけてください」
そう言って席を立ったリアムは、最後にもう一つだけ。と、雁夜の胸へ人差し指をトンッと指差す。
ビクリと警戒に体を強ばらせる雁夜に構わず、リアムはそのまま口を開いた。
「貴方の殺意は、貴方だけのものです。
貴方が貴方の殺意で殺すことを決め、そして行動しているのです。
自分の殺意の言い訳に、他人を、ましてや大切な人を使うのは、相手も自分もただ傷つけてしまうだけですから」
ゆっくりと指が離れ、そして今度こそリアムは姿を消した。
「……俺の、殺意」
胸に手を当て、目を閉じる。
脳裏に浮かんだのは、愛する女性と2人の幼い少女の笑顔だった。