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少しづつ意識が浮上する。
久しぶりに、ベッドで眠っているような感触。ここの所はずっと、痛みで気絶するかのように眠ってしまっていたので、ベッドまでたどり着くことは疎か、人気のない路地裏で意識を失っていることもあったのだ。
そんな自分がなぜ今、ベッドの上で眠っているのだろう。
だって自分は確か、セイバー陣営に奇襲をかけて……
そこまで思い出してガバリと起き上がったが、痛みでまたベッドに逆戻りしてしまう。
「おはようございます、間桐雁夜」
混乱している雁夜にそう声をかけたのは、今まで霊体化していたのであろう、姿を現したセイバーだった。
「あぁ、起き抜けですがひとつ警告しておきます。
貴方がバーサーカーを呼んだ場合、または攻撃を仕掛けた場合は、もちろんこちらもそれ相応の対処をさせていただきます」
セイバーの言葉に雁夜はぐっと顔を顰めた。
確かにこの距離では、雁夜が攻撃を仕掛けるよりも先に、セイバーに攻撃される方が速いだろう。バーサーカーを呼んだとてそれは同じ、むしろバーサーカーにこの狭い部屋で暴れられては自分も巻き添えを食らってしまう、つまり雁夜にとって今この状況は最悪といって差し支えなかった。
雁夜の様子にセイバーは苦笑を浮かべると、ベッド脇の椅子に座り込んだ。
「ご安心を……と言っても貴方は信用できないでしょうが、私から貴方へ害を成すことはしません。
一先ずあの後何があったのかを説明しましょう」
そう言って話し始めたのは、雁夜がセイバーに気絶させられた後の事だった。
雁夜を気絶させ、バーサーカーの魔力不足による一時的な消失に追いやった後、共闘していたランサーとリアムはアインツベルンの屋敷へ向かう。
本来ならばランサーはその場でリアムの足止めをしている手筈だったのだが、マスターであるケイネスからの切羽詰まった様な退却の命令が来たのだ。
屋敷の廊下、そこでは切嗣とケイネスが相対していた。
リアムにかけられた呪いのこともあり、つい先日切嗣に工房と化していたホテルを爆破されたこことにより、それならばと奇襲を仕掛けたランサー陣営だったのだが、時計塔のロードたるケイネスは切嗣を少々甘く見ていたのだ。
彼のまたの名を「魔術師殺し」。その名の通り切嗣の放った起源弾はケイネスの水銀を貫き、致命傷を負わせた。
あと一歩ランサーが来るのが遅ければ、彼は確実に命を落としていたであろう。
切嗣もまた、ランサーに背負われ逃亡するケイネスをそれ以上追うことはしなかった。
あの傷ではもうケイネスはまともに動くことは出来ないだろう。欲をかいて深追いすれば、逆にこちらに危険が及ぶ事もある。
それよりも、と切嗣は銃を下ろすとリアムを睨みつける。
「セイバー、一応聞いておくがその背中に背負っているのは」
「バーサーカーのマスターですよ、切嗣」
もちろん無力化はしています。というリアムの言葉に切嗣はそう言う事じゃないと顔を歪めた。
「それに、彼の体は内側から侵されていて弱っています。それが何かは分かりませんが、聖杯を求めているはずの御三家の人間が、その状態のままでマスターとして参加する事を良しとするものでしょうか。
ましてや彼に戦いに関する知識があるようには感じられなかった。それをサポートもせずに、同じ御三家の一角であるこちらに攻め込むのを黙って見ている」
それはまるで、今回の聖杯を得ることを放棄しているような行動。
あるいは、なにか別の目的があるのか。
「……情報は君が引き出せ、セイバー
それから、間桐雁夜には聖杯から手を引いてもらう。いいね?」
「ありがとうございます、切嗣」
ため息を吐く切嗣の背を見送り、空き部屋に間桐雁夜を寝かせる。
その体が、寝顔が、まるで悪意に満ちた死を纏っているようだった。