Grand Order
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人類最後のマスターである藤丸立香は、どこか疲れた様子でカルデアの廊下を歩いていた。
実は先程まで魔術の師であるキャスター、諸葛孔明に魔術基礎についてみっちりしごかれていたのである。
カルデアにくるまで平々凡々な日常を送っていた立香は、こうして定期的に先述した孔明は勿論。神代の魔女であるメディアや、冬木からの頼れる存在であるキャスターのクー・フーリン等といったメンツに、魔術や戦術についての手解きを受けていた。
(大切な事だっていうのは分かるし有難いんだけど、さすがに疲れたし、お腹空いたな……。)
誰もいない廊下にくぅと小さく腹の虫の鳴き声。時刻は午後3時少し前。
今頃カルデアのオカンと名高いエミヤかブーディカといった面倒見のいい料理上手なサーヴァント達が、幼い姿で限界しているサーヴァントのためにおやつを作っているところだろう。
立香の足はいつの間にか、食堂へと向かっていた。
立香の予想通り、食堂へと近付くにつれふんわりとした、どこか優しくて甘い匂いが漂ってきて更に立香の空腹を刺激した。
「今日のおやつ何……ってあれ?」
「あっ、お母さん!今日のおやつはね、ホットケーキなんだよ!!」
「魔術の勉強は終わったんですよね、トナカイさん。なら、私達と一緒に食べましょう!」
ジャックとジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィが立香に気が付き大きく手を振る。
ナーサリーとバニヤンも一緒に、4人仲良く同じテーブルでおやつを待っていた。立香も誘われるままに同じ席につく。
そんないつものおやつ時の光景に、珍しい人物が1人、紛れ込んでいた。
「アサシンのエミヤが居るなんて珍しいね。」
そう、アサシンのエミヤだ。彼がこの時間帯に食堂に居るのはなかなかに珍しいことだった。
「甘いものは嫌いじゃないんでね。」
そう言う彼だったが、自ら積極的に甘いものを食べに来ている印象は薄い。どちらかと言えば差し入れで貰ってだとか、食後のデザート等出たものを食べている方が強い。
不思議がっている立香に、ナーサリーがふふっと笑う。
「マスター、今日のおやつは誰が作ってくれていると思う?」
「ブーディカかアーチャーのエミヤじゃないの?それかマルタとか……?」
立香の答えに4人は顔を見合わせてくふくふと笑う。
「マスター、おやつを作ってくれているのはね……」
「私ですよ、マスター。」
厨房から甘い香りと共に出てきたのは、両手で大きなトレーを持ったセイバーリアムだった。
「お待ちどうさまです。焼きたてなので、気をつけて食べてくださいね。」
「わぁ!」
それぞれの前に置かれたのは、ホカホカ綺麗なきつね色のホットケーキ。その上にとろりとした黄金色の蜂蜜。これだけでも十分美味しいホットケーキなのだが、
「見て、ウサギのホットケーキよ。素敵だわ!」
「私のはクマだ!」
それぞれのホットケーキに、チョコペンで可愛らしい動物の似顔絵が描かれていたのだ。
立香の前に置かれたホットケーキにも、可愛らしいチョコペンの犬の笑顔。
「今日のおやつ作ってたのリアムだったんだ。すごい可愛い!」
暫くホットケーキを眺めた立香は少し勿体ないなと思いつつ、ホットケーキにフォークを入れて一口台に切ると、それをフォークで突き刺しパクリ。
「ん〜!!美味しい!」
ハフハフもぐもぐ。口いっぱいに広がる優しい甘さに、立香は満面の笑みを浮かべる。
ジャック達も嬉しそうにホットケーキを頬張る。
ふとアサシンのエミヤを見れば、彼のホットケーキにも可愛らしいチョコペンの動物。少しすました顔のネコだった。
そんな可愛らしいホットケーキを静かに食べるエミヤはなんだか少しシュールだ。
「そう言えば、どうして今日はリアムがおやつ作ってたの?」
リアムが簡単な料理を作れることは知っていたが、厨房に立っている姿はあまりみたことがなかった。
「実は、彼女達と絵本を読んでいたらホットケーキが出てきましてね。」
「それで私たちがリアムに作って欲しいって頼んだの」
リアムは生前の弟と妹の影響か、兄気質の彼は特に子供系サーヴァントに弱かった。
子供系サーヴァント達も、そんなリアムによく懐いていて、だからこそ彼にホットケーキをねだったのだろう。
立香はなるほどなと、また1口ホットケーキを頬張る。
「厨房に向かう途中でアサシンのエミヤに会い、よろしければと彼もお誘いしたのです。」
エミヤはそれにあぁ、と頷く。
リアムが誘ったのならば、彼が此処に居ることに納得できる。
アサシンのエミヤとリアムは不思議な関係だった。
ただ仲が良いだけという訳では無い。それよりもっと深い別の何か。"相棒"という言葉が1番しっくりと来るかもしれないなと、立香は考える。
「何だか甘く優しい、良い香りがしますね。」
「今日のおやつを作っていたのはリアムだったか。」
ひょっこり食堂に顔を出したのは、青い腹ペコの王様と赤い弓兵。
「こちらにいらっしゃいましたか、先輩。皆さんで何を食べているんですか?」
立香の相棒の、可愛らしい後輩の声。
「追加のホットケーキを焼いてきますね。」
厨房に戻って行くリアムを、赤い弓兵が私も手伝おうと後を追う。
胸いっぱいの甘くて温かくて優しいひとときに、立香は幸せだなと笑った。