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セイバー陣営のマスターを狙うつもりが一足遅かったことを、その耳に届いた激しい戦闘音で知った。
既に始まっていたバーサーカー対セイバーランサーの戦いを、巻き込まれない位置から観察する。
セイバーとランサーのマスターたちの姿は見当たらない。さすがに2対1ではバーサーカーが押されているようだった。
セイバーとランサー、お互いが武人で尚且つ1度戦った仲だからなのか、初めての共闘にしては見事な連携だ。
けれど今回の綺礼目的は、サーヴァント同士の戦闘を見ることではない。
師である遠坂時臣のサーヴァント、アーチャーギルガメッシュの言葉である「聖杯戦争に参加している他のマスター達の目的」を知るためにセイバー陣営まで来たのだ。
この戦闘に乗じ、マスターの元へ向かおうとした足が、間桐雁夜の叫び声にピクリと止まる
「僕は、桜ちゃんにまた葵さんと凛ちゃんに会わせてあげると、約束したんだ!
遠坂時臣!彼奴が、桜ちゃんをあんな地獄へ追いやったんだ!!彼奴が……彼奴が居なくなれば!!」
その叫びは、遠坂時臣への劣等感を孕んでいた。
間桐桜を姉である凛や母の葵に会わせることと、遠坂時臣を殺してしまうことは関係ない。
というより、本来ならば間桐桜を姉や母だけでなく、父にも会わせ家族4人に再び戻してあげることこそが、間桐桜にとっての聖杯に願うべき最良と言えるだろう。
けれど雁夜はそれを考えなかった。
それは雁夜が抱く遠坂時臣への劣等感、羨望、妬み嫉み。
何より、愛する女性を奪われたことに対する憎しみ。
雁夜が桜を助けたいと願う気持ちは本物だろう。けれどそれはきっかけに過ぎない。
間桐雁夜は遠坂時臣を殺し自らの夢を、愛する女性と愛しい二人の娘に自分を選んで欲しいという願いを叶えたいのだ。
あぁ、その姿の何と────
綺礼はハッと己の口元に手を当てる。
自分は今何を思った、何故この口は弧を描いている。
冷や汗が頬を伝い、胸中が嫌悪感で満たされていく。
「それは、貴方自身の願いでしょう」
セイバーの問いに、雁夜の言葉が詰まる。
雁夜を真っ直ぐに見つめる琥珀色の瞳。
まるでこちらの罪まで見透かすようなその目に、綺礼は息を飲んだ。
バーサーカーに魔力を回そうとしていた雁夜の意識を峰打ちで刈り取ったセイバーは、倒れる前に彼の体を抱えると、ランサーの方を振り返る。
雁夜の意識を奪うためにランサーがバーサーカーを抑えていたが、マスターである雁夜が倒れ魔力不足になったのか、バーサーカーもまた不明瞭な雄叫びを上げながら、その体を霊体化させた。
バーサーカーとの戦いは、セイバーとランサー2人の勝利に終わった。
そのまま新たにこの2騎の戦闘に発展するかと思いきや、アインツベルンの屋敷から響いた発砲音に、そちらへ向ってしまった。
1人残る綺礼の頭にこびり付いた、あのセイバーの目。彼は何を思いこの聖杯戦争に呼ばれ、マスターである衛宮切嗣の召喚に応えたのか。
「知るべきはマスター達の目的だけでは無いかもしれないな」
あのセイバーが絶望の中に堕ちた時、彼は一体どんな目をしているのだろうか。
そっと過ぎった考えに頭を振る。けれど浮かべた笑みだけは消せることのないまま、神父はその場を後にした。