幕間
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
麗らかな平日午後の昼下がり
冬木市の市営図書館にて、リアムはとある特設コーナーの前で足を止めていた。
1冊の本を手に取ると、興味深げにページを捲っていく。
「……これは、良いですね」
そうしてそのままその本を借りるべく、貸出カウンターへと歩を進めた。
図書館から衛宮家へと帰宅したリアムは、ニコニコと楽しげな笑みを浮かべながら、切嗣に1冊の本を差し出した。
「『簡単!誰でも出来るお菓子作り』?」
「はい。図書館に新しく、食欲の秋をテーマに特設コーナーが作られてまして、借りてみたのですが……」
リアムはパラパラと本をめくると、とあるページを開いて見せた。
「炊飯器を使って、簡単にシフォンケーキが作れるそうですよ」
「炊飯器……オーブンとかじゃなくてかい?」
ええ。と頷くリアムは改めてレシピ本を顔の前で掲げて見せた。
「どうです、ちょっと作ってみませんか」
士郎は平日なので学生らしく学校へ。
アイリスフィールとイリヤスフィールは新しく出来た雑貨屋を見に行くのだと、舞弥とセイバーを誘い嬉々として出かけて行った。
つまり今現在、この家にいるのは切嗣とリアムの2人だけ
リアムは料理は出来る方だが、切嗣はあまり得意とは言えない腕前だ。
それでも切嗣は、時折この自分のサーヴァントが持ってくる、優しいイタズラのような、子供のような提案が嫌いではなかった。
「まずは卵、卵黄に砂糖を加えて混ぜる」
リアムは2つ卵を割ると、丁寧に卵黄と卵白に分ける。
そうして分けた卵黄の方をボウルに入れるとそれを切嗣が混ぜ、さらにリアムがそこに砂糖を数回に分けて加えていく。
「白っぽくなるまで混ぜるそうです」
「了解」
切嗣が混ぜている隣で、リアムは残った卵白を別のボウルに入れて、そちらにも数回に分けて砂糖を加えながら泡立てて、メレンゲを作っていく。
「これくらいで大丈夫そうかい?」
「ええ、いいと思います。そしたらそれに水、油、ふるった薄力粉を入れて、その都度またよく混ぜる」
順調に進んでいくケーキ作り
流れる空気は、どこまでも平和で穏やかだ。
「混ざった生地に、今度はこのメレンゲを加えて、メレンゲが潰れないように、さっくり混ぜるそうです」
生地にメレンゲを加えていくリアムに、お菓子作りの経験などほとんど無い切嗣はさっくり混ぜるの加減が分からず、どこかぎこちなく手を動かす。
「縦に切り込むようにして、底からすくい上げるようにして混ぜ合わせるといいですよ」
お菓子作りの経験があるリアムからのアドバイスに、切嗣はどこか真剣な顔で実践していく。
「あとは、出来上がった生地を炊飯器に入れて空気を抜いたら、スイッチを押すだけ……だそうです」
ピッと、軽やな電子音を鳴らしてセットされた炊飯器に、切嗣はほう、と息をついた。
「上手く出来るといいんだけどね」
「きっと大丈夫ですよ」
炊飯器を見つめながらそう呟く切嗣に、リアムは柔らかに答えた。
再び鳴った電子音は、完成を知らせる合図
2人揃って炊飯器の前に立つ。
ドキドキ、ソワソワ
静かに炊飯器の蓋へ手を伸ばす。
「……開けるよ」
「……はい」
カパリ、と開いた炊飯器からまず初めに感じたのは、温かくて柔らかな甘い香り。
そうして顔を覗かせたのは、ふんわりとした薄黄色。
いそいそと大皿に移して見れば、底も綺麗に焼けている。
「上手く出来ましたね、切嗣!」
「うん、まさか炊飯器でここまでキレイに焼けるとは、思っても見なかったな」
見事な出来栄えに、2人は顔を見合わせるとクスクスと笑いを漏らした。
「ただいま……ん、何かいい匂いするな」
「あっ、士郎も今帰ってきたの?……あれ、いいにお〜い」
「あら、ほんと。甘い匂いね」
家族の帰宅の声に、いつの間にかもうそんな時間になっていたことを知った。
まずはおかえりと家族を出迎えて、それから焼きたてのシフォンケーキを、みんなで食べよう。
柔らかな甘い香りと一緒に、胸いっぱいに広がる幸せを、切嗣はそっと噛み締めた。