Grand Order
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・赤い暗殺者と
カルデアの廊下。ガラス窓の向こうは一面の闇と白銀の雪。
アサシン・エミヤは、目深に被ったフードの内から、ただ変わらないその景色を眺めていた。
ふと彼の耳に、カツリと音が聞こえたかと思えば、それはごく自然な動作で彼の隣に来ると歩みを止めた。
「こんばんは、良い夜ですね」
ふわりと、穏やかな笑みを携えて音の主、セイバーリアムは言った。
「あぁ、そうかもしれないな」
吹雪くことの多いカルデアの外だが、今夜は多少雪が降っているものの、比較的穏やか。夜空には丸々とした月がまばらに散った星の群れと一緒に浮かび、その銀色の光を雪が反射してキラキラと静かな輝きを放っていた。
エミヤはその眩しさに目を細めると、そっと隣のリアムへと視線を移した。
反射した銀の光は、彼を淡く照らしていた。
けれど彼の瞳は、夜空の星にも負けない光を瞬かせている。
その光は、届かぬ理想を知っている。戦う辛さを知っている。失う痛みを知っている。
かつて1度は消えてしまった光。それでも、再び灯った光だった。
エミヤは、彼の瞳の光が好きだった。
光を携えた瞳が、ゆるりとエミヤへと向けられる。
「どうかしましたか」
エミヤがふるりと首を横に振れば、リアムは特に気にしたふうもなく、そうですか。と笑った。
「それにしても、いくら空調設備が整っていると言えど、廊下の窓際は冷えますね。食堂で、熱い紅茶でも飲みましょうか。
そうだ、アーチャーのエミヤや、白い彼女も誘って。起きていたら、イリヤとクロエにも声をかけましょう」
ふと出された提案に、いつもならサーヴァントに寒さは関係ないだとか、飲食は必要ないだとか、切り捨てることが出来たはずなのに。
リアムの楽しげな声音に、それもいいかもしれないね。だなんて同意してしまって。
「なら、とびきり美味しい紅茶にしなくては」
そう言って笑うリアムの瞳で、光がより一層強く輝いた。
エミヤはその光の隣を共に歩む。
外の景色は変わることなく。
まずは食堂へ、とびきりの紅茶をいれに。
・・・
・赤い弓兵と
ジュワァ……
カルデアのキッチン。
黄金の油にぷかりぷかりと、穴のあいたドーナツが浮かぶ。
両面がきつね色になったら、軽く油を落としてキッチンペーパーのひかれた大皿に移していく。
「これだけあれば足りるか?」
大皿に山ほど盛られたドーナツを横目に、アーチャー・エミヤは呟いた。
日課のレイシフトに出たマスターと、ジャックやナーサリー達子供サーヴァントのおやつ用にと揚げられたドーナツだが、きっと他のサーヴァントも食べに来るだろう。
それを考えると、やはりもう少し用意した方がいいだろうか。
「おや、いい匂い。ドーナツですか」
そうひょっこりと顔を覗かせたのは、リアムだった。
「あぁ、今日のおやつ用にと思ってね」
なるほどとリアムは笑うと、なにか手伝うことはないかと問うた。
「それなら出来てるものに、粉砂糖をかけてくれ」
リアムは手を洗うと、言われた通りにドーナツに粉砂糖をかけていく。
「ふふっ。エミヤの作るものは、どれも美味しいですから。今日のおやつも皆喜ぶでしょうね」
嬉しそうにそう零すリアムの言葉に、エミヤもむず痒い様な、妙な気持ちになる。
それは決して悪いものではなく、薄らと赤くなる耳が全てを物語っていた。
先に2人で、揚げたてのドーナツを食べてしまうのも良いかもしれない。
エミヤはこっそりと、2つのドーナツを小皿に移した。
きっとそれくらいは、許されるはずだから。
・・・
・魔法少女と
カルデアのとある一室。
椅子に座る少女の柔らかな白い髪へ、丁寧な手つきで櫛を通していく。
「リアムさん、器用そうだなって思ってましたけど、髪も結べるんですね」
白い髪の少女、イリヤの嬉しそうな笑顔にリアムも微笑む。
「生前は、妹の髪をよく結っていたので」
そう言ったリアムの手付きは、確かにどこか手慣れていた。
「はい、出来ましたよ」
渡された手鏡に写る髪は、常のロングヘアーではなく、後ろでゆるいお団子のシニヨンに結われていた。
「わぁ、可愛い!」
イリヤは、嬉しそうに手鏡で結われた髪を見る。
「イリヤは元々が可愛らしい顔立ちですからね」
そう言って向けられた笑みは、どこまでも優しいもので。
「あ、ありがとうリアムさん!私もう行くね!!」
急に立ち上がったかと思えば、お礼の言葉と共に走り去っていくイリヤを、リアムただ不思議そうに見送った。
(どうしたのよ、イリヤ。そんな顔真っ赤にしちゃって……あれ、その髪型どうしたのよ)
(あれは反則だよ!クロもそう思うよね!?)
(……一体何の話よ)
・・・
・白き聖杯は
夜の廊下に並んだ2人を見つめて、白い女性は安心したように微笑んだ。
背中を預けられる彼が隣にいるのなら、あの人は大丈夫。
それにここには、いつかどこかの世界で出会えた、愛し子達もいる。
だからこの戦いの中で、あの人が少しでも多くの幸福と安泰が得られればいいと
そう願って、ふわりと微笑んだ。
さぁ、紅茶をいただきにいきましょう。