幕間
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光の消えた瞳、死人を思わせる白い肌。
本来の穏やかで優しい雰囲気は形を潜め、残されたのは突き刺すような冷たい視線と、濁った憎悪。
血に濡れ傷ついても尚、敵を屠るその様は、まさに復讐者。
赤い弓兵は言った。
救ってみせると
憎み、傷つくあの人を見たくないのだと。悲しげに笑った。
反転した黒い弓兵は言った。
自分も共に崩れるだけだと
同じ反転した者だからこそ行ける道だと、自嘲気味に笑った。
抑止力の暗殺者は言った。
止めるだけだと
それがきっと自分の役割だと。淡々と告げる言の葉とは裏腹に、確かな決意が滲んでいた。
・
オルタ化したリアムは、カルデアのメンバーと関わろうとしない。特に子供系のサーヴァントは避けてすらいる。
1度、聞いたことがある。何故避けるのだと。
「歪んで狂った私が、触れていいはずがない」
ポツリと、それだけを残して彼は霊体化してしまった。
けれど一瞬、霊体化する前に見えた顔が、今にも、泣きだしそうに見えた。
・
汚染された聖杯から漏れだしたそれは、泥の形をした純粋かつ圧倒的な呪いだった。
触れたものの肉体を消失させ、魂さえも汚染させてしまう。
それがたとえサーヴァントとであっても変わらない。
その在り方を変え、黒化させてしまう。
「まったく、どうしたもんかねぇ……」
廃墟の中、崩れかけた壁を背に青年は困ったように空を見つめる。
「どうしました、◼◼◼」
青年の前に男が立ち、影が落ちる。
逆光になってその顔はよく見えない。
「んー?なんでもないですよ、兄さん」
へらりと青年は笑う。
廃墟に2人。
青年に兄と呼ばれた男は、青年の兄ではない。
記憶が確かなら兄という存在すら持ちえていなかった。
そして何より◼◼◼と言う名前でもない。
青年の名前はアンリ・マユ。
かつての聖杯戦争でアインツベルンが召喚したサーヴァントだった。
7騎のクラスどれにも当てはまらない、アヴェンジャーというクラスを持つサーヴァントである彼は、聖杯が汚染された原因でもあるこの世全ての悪と呼ばれる者だった。
第四次聖杯戦争の最中、聖杯が汚染されていることに気づいた参加者たちは一時休戦とし、聖杯を解体、または封印することを決めた。
時計塔のロードであるケイネス・アーチボルトと冬木の管理者である遠坂時臣を主に、他のマスター達はサポート役として聖杯を解体する手筈であった。
けれどそう事は上手くは運ばない。
解体の途中、突如として溢れ出した泥。
解体は中止、撤退する最中で泥を外に流出する事だけは避けねばならない。
切嗣は令呪を使用することでできる限りの魔力をリアムに回し、リアムもそれに応えた。
リアムの放った宝具は泥を押しとどめることには成功したが、けれどそのために最後までその場に残っていたリアムの体、霊基は泥に飲み飲まれた。
そうして彼はその精神を汚染され、反転した。
1度泥を排出した今、聖杯は沈黙しているがそれも長くは続かないだろう。いわばいつ爆発するか分からない爆弾のようなものなのだ。
そしてその聖杯は、リアムの手の中にある。今の彼は聖杯を守るための装置の様なものだ。
リアムはアンリ・マユをかつての弟と混同させてしまっている。
見た目も中身も何もかも違うはずなのに、それでも汚染され精神はアンリ・マユを弟として錯覚、認識した。
皮肉なことだとアンリ・マユは思う。
かつて守りたいと願った家族の姿を、よりにもよって己と混同し、共に戦うことを誓ったマスターに刃を向けている。
「ほんと、救われないな」
今日も彼は血に濡れて、汚染された残酷な夢を見るのだろう。
この世全ての悪は、いつかこの夢が覚める日を待っている。