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ワンドロSS

カーテンの隙間から差し込む日差しが眩しくて、ノアの意識は深い眠りの奥底から浮上した。ふわふわのベッドの上。しばらくの間、まだぼんやりとした意識の中でうつらうつらと微睡みながら広いベッドの上をゴロリと横になれば、そこには桃色の髪をした愛しい人がすぅすぅと心地よさそうにまだ安らかな眠りの中にいる。

(……アンジュ)

起こさないように、そっと手を伸ばし柔らかな髪に触れれば朝日に照らされた彼女がやけに眩しく見えてノアは目を細める。

(アンジュ、天使みたいだ)

女王として、守護聖に指示を出し宇宙を総べる彼女は凛としていて気高い。日中、目映いばかりの笑顔でノア!と呼びかけ手を引く彼女は、明るく、活発な……まるで向日葵のような女性だと思う。ノアは、自分とはまるで違うそんな彼女のことが愛おしい。そして、眠る今。日中の姿は影を潜め、まるで天使のように慈愛に満ちた存在のように感じる。

そっと近付き、身を寄せればとくん、とくんと脈打つ鼓動が聞こえてノアはそっと目を閉じた。触れる肌があたたかい。とくん、とくんと生きている証である音が聞こえて思わず胸がギュッと締め付けられるような、そんな気がした。だが、それは嫌な感覚ではない。喜びで、満ちている。

眠る人を見ることが怖かった。
夜になって闇に包まれ、安らぎとともに寝静まる時間が苦手だった。空に光る無数の星々は綺麗だったけれど、その明かりですらノアにとっては煩わしいものだった。それよりも苦手なのは、朝日が差し朝がやってくる瞬間だった。
隣にいる大事な人が、目を覚まさなかった。助けようとしてくれた優しい人が目を覚まさなかった。次第に冷たくなる身体に縋り、起きて目を覚ましてと呼びかけても帰ってこない反応に絶望した。

だが、今は違う。
アンジュは、違う。

隣で眠る存在を見て、愛おしいと感じるようになった今がノアにとっては奇跡のような時間だ。彼女に出会って、ノアは夜の闇も、星々の瞬きも、そして朝の優しい時間も、全てが大好きになった。春も夏も秋も冬も。全ての季節が、彼女の隣にいるだけで愛おしくなる。

(起きない、かな)

そっと、でもほんの少しだけ力を込めて彼女の背中に手を回せば自分自身の鼓動が高まるのをノアは感じた。

(ドキドキ、する。でも、嫌じゃない)

そっと柔らかな頬に口付け、ノアは目を閉じた。まだ、目を覚ますには早い時間だ。もう少しだけ、あともう少しだけ眠りの中へ戻っても許されるだろう。

もう、悪夢は見ない。

眠りの中も、現実も。
ノアの周りには幸せが満ちている。
アンジュも、ともに宇宙を守る守護聖たちも。ノアはもう、一人ではない。




――「おはよう! ノア!」

愛おしい声が、ノアを呼ぶ。
ノアの幸せの鳥が、ノアに向かって微笑んでいる。

「……おはよう、アンジュ」

そして、また一日がはじまるのだ。
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