カナアン
8月某日。
長い試験期間が無事に終了し、カナタはスマートフォンを握りしめて改札前の待ち合わせに最適なスペースを陣取っていた。
昨日の夜は熟睡出来なかった。目を瞑れば、脳裏に焼き付いたアンジュの笑顔が思い浮かびどうしても悶々と彼女のことを考えてしまった。楽しんでくれるだろうか。会えば、何を話そうか。次から次へと考えが浮かんでは消えてゆく。
まさか自分がこんなに誰かひとりの人に心を奪われるなんて思っていなかった。弟に彼女が出来たときも、自分には遠い世界の話だと思っていた。付き合うとかそういうのはイメージがなかなか湧かず、友達と遊んでいる方が楽しかったのに。
たらり、と頬を汗が伝う。待ち合わせまではあと20分。さすがに早く来すぎたか。アンジュからのメッセージは、朝に今日はよろしくねというひと言があったきり途絶えている。まだこないだろうと思ってはいるのに、次から次へと改札から出てくる人々の流れに目を凝らし、待ち人の姿をついつい探してしまう。
「あ!」
桃色のショートヘアが視界に入り、思わず身を乗り出す。だが、すぐに人違いだと気付いてカナタは喉元まで出かかった声を飲み込んだ。通り過ぎる通行人の視線が痛い。照れ隠しに手元のスマートフォンを見ると受信メッセージが表示されていて、思わず差出人を確認せずにスグにタップした。しかしそこには、カイトの名前とアイコンが表示され、「カナタがんばれ〜笑」という一言とおどけたスタンプが表示されていた。おもわず肩を落とすが、応援してくれていることは確かで、カナタはどう返事を返そうかと頭を抱える。こういうのは、苦手だ。と、その時だ。
「カナタくん! おはよう!」
どくん、と胸が跳ねる。
「おおお、おねーさん!?」
「ちょっと早く着いちゃったんだけど、カナタくんの方が早かったね。びっくりしたよ」
もしかして、持たせちゃった?と眉を下げてごめんっと手を合わせるアンジュにブンブンと首を横に振る。
「ぜんっぜん待ってないよ。大丈夫!」
「……ほんと?」
「ほんと! ついさっき着いて待ってたとこだよ」
「ふーん……?」
暑さと、焦りと、緊張と。
全てがごっちゃ混ぜになる感覚につい右手と右足が一緒に出る。
「ほら、おねーさんいこ!」
「……そうだね。あ、ちょっと待って」
きっと、バレているのだろう。アンジュはくすりと笑みを浮かべるとそう言い残して走り去っていった。
「えっ? ちょっと、お姉さん!?」
どうしよう、追いかけるべきだろうか。それとも、待っているべきだろうか。そんな風に戸惑っている間に、小走りにアンジュが戻ってくる。
「はい、暑いから気をつけてね」
手渡されたペットボトルが、やけに眩しかった。
長い試験期間が無事に終了し、カナタはスマートフォンを握りしめて改札前の待ち合わせに最適なスペースを陣取っていた。
昨日の夜は熟睡出来なかった。目を瞑れば、脳裏に焼き付いたアンジュの笑顔が思い浮かびどうしても悶々と彼女のことを考えてしまった。楽しんでくれるだろうか。会えば、何を話そうか。次から次へと考えが浮かんでは消えてゆく。
まさか自分がこんなに誰かひとりの人に心を奪われるなんて思っていなかった。弟に彼女が出来たときも、自分には遠い世界の話だと思っていた。付き合うとかそういうのはイメージがなかなか湧かず、友達と遊んでいる方が楽しかったのに。
たらり、と頬を汗が伝う。待ち合わせまではあと20分。さすがに早く来すぎたか。アンジュからのメッセージは、朝に今日はよろしくねというひと言があったきり途絶えている。まだこないだろうと思ってはいるのに、次から次へと改札から出てくる人々の流れに目を凝らし、待ち人の姿をついつい探してしまう。
「あ!」
桃色のショートヘアが視界に入り、思わず身を乗り出す。だが、すぐに人違いだと気付いてカナタは喉元まで出かかった声を飲み込んだ。通り過ぎる通行人の視線が痛い。照れ隠しに手元のスマートフォンを見ると受信メッセージが表示されていて、思わず差出人を確認せずにスグにタップした。しかしそこには、カイトの名前とアイコンが表示され、「カナタがんばれ〜笑」という一言とおどけたスタンプが表示されていた。おもわず肩を落とすが、応援してくれていることは確かで、カナタはどう返事を返そうかと頭を抱える。こういうのは、苦手だ。と、その時だ。
「カナタくん! おはよう!」
どくん、と胸が跳ねる。
「おおお、おねーさん!?」
「ちょっと早く着いちゃったんだけど、カナタくんの方が早かったね。びっくりしたよ」
もしかして、持たせちゃった?と眉を下げてごめんっと手を合わせるアンジュにブンブンと首を横に振る。
「ぜんっぜん待ってないよ。大丈夫!」
「……ほんと?」
「ほんと! ついさっき着いて待ってたとこだよ」
「ふーん……?」
暑さと、焦りと、緊張と。
全てがごっちゃ混ぜになる感覚につい右手と右足が一緒に出る。
「ほら、おねーさんいこ!」
「……そうだね。あ、ちょっと待って」
きっと、バレているのだろう。アンジュはくすりと笑みを浮かべるとそう言い残して走り去っていった。
「えっ? ちょっと、お姉さん!?」
どうしよう、追いかけるべきだろうか。それとも、待っているべきだろうか。そんな風に戸惑っている間に、小走りにアンジュが戻ってくる。
「はい、暑いから気をつけてね」
手渡されたペットボトルが、やけに眩しかった。
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