彼と彼のサブ話
「殺して、すまなかったな」
その言葉を言われる覚悟をいつの日だったか、いつの人生だったかで、していた気がする。
だがハッカーにはそれがいつだったのかも、それを本当に覚悟していたのかも、よく分からない。
言われて漸くああそりゃ言われるよな、なんて思ったくらいだった。
「俺は自分の為でも街の為でも無くお前の為に死んだんだよザック。
だから謝ることなんて無いさ、お前が望むからこそ死んだんだ……結果的にそれが街を救おうが何だろうが構わないがな…俺はお前の為に死んだんだよザック」
プログレスはこの時半分正直者でもう半分は嘘つきだった。
お前の為にとは言ったが、これはプログレスの我儘でもあったのだから。
「お前にゃ幸せになって欲しいんだよザック。俺の事なんか忘れちまえ、俺ももうお前の事は忘れるよ」
「プログレス」
「んだよ」
「お前との2年半、楽しかったぞ」
黒髪に琥珀の瞳を持った男は艶然と一笑した。
顔に傷はない。背も昔より低い。
しかし今までで1番ザカリー・ポッターだった。
「やめろよ。そんな事言うと俺、また次もその次もずっとお前のこと探しちまう。
それにな、忘れちまえだなんて言ってるけど本当は俺の方がやばいんだ。少しずつお前のこと忘れてんだよ。」
名前は分かる。だが髪の色は?瞳の色は?していた仕事は?入っていた組織は?好きな動物は?あだ名は?
たまに分からなくなる、そうして分からなくなったことに怯え必死に考え思い出す度に安堵していた。
「そうか…俺も実を言うとよく分からん
前回の記憶と言う記憶が無いんだ、ただ今のお前は髪色も瞳の色も同じで髪型も昔と同じだったから分かった」
「死にたくないよザック、俺、次もお前の事見つけられるか分かんねえもん……それに、お前が俺の事覚えてくれてるのかも分かんねえよ……鼻からお前が俺の事なんざ覚えちゃいないって前提ならよかった。でも、そうじゃないと分かっちまった手前そんなの耐えらんねえよ」
「これから俺が死ぬまで毎日俺にあってくれ、それで毎日昔話をしてくれ、勿論マリーアントワネットとかの話じゃない方の昔話だ。お前と、俺との2年半の話を」
「おいおい」
黒髪の男は思わずと言ったように目を瞬かせて掴まれた両手をそのままに気まずそうな面を浮かべた。
「お前それは中々まずいんじゃないのか?……あー…待て、おい…早とちるな…」
「プロポーズでも構わないっ…なんなら結構前の俺らは結婚して子も孫も居たんだからな」
「おい待て、今の話本当か?お前何やらかしてんだ」
そうして2人は再び"ザック"と"プログレス"として、友人として人生をはじめられた。
数十年後にザックが病死したがプログレスは満足していた。
この人生を糧にあと100遍は人生をやり直す事ができると思った。
だが、そうはいかなかった。
次の人生はあまりにも"同じ"人生だった。
組織のメンバーの名前も見た目も街も妻も子も全て一緒だった。
そしてハッカーは"以前"がそうであったようにヘマはしないよう動いた。
ハッカーの妻子は殺されなかった。
面倒事に巻き込まれず、職を手放す事もなく。
当然下水道に住み着くこともなかった。
ザックは?
ハッカーはそれでも尚ザカリー・ポッターを探した。
ザカリー・ポッターは確かに"居た"。
B区の鍵屋に人相の悪い男が確かに居た。
「誰だお前」
ザカリー・ポッターはハッカーを覚えていなかった。
そうして気づいた、これは2人の出会いをやり直していたのだと。
ハッカーはそれから毎日ザカリー・ポッターの元に通った。
せめて知り合いたいと、友人にだけでもと思った。
しかし男は用心深い。そこまで深い関係になれるはずもなかった。
下水道の下、髪を崩し酒を飲みながら笑っていた。
彼の中のザカリー・ポッターにはもう会えないのだ。
ハッカーはそれから20年程待った。
娘と息子が大学に慣れるまで大人しく仕事に従事し、ザカリー・ポッターの元を訪れていた。
しかしそんなハッカーの努力も虚しく報われることも無いまま。
ザカリー・ポッターは20年も経つ間もなく、途中で忽然と消えてしまった。
そうして20年程経ったある日、ザカリー・ポッターを見つけた。
オレンジの囚人服に血をデコレーションしたボロボロの状態で。
ゴミ捨て場で揶揄的な意味の方で"腐っていた"のだ。
彼は咄嗟に拾って匿った。
黒髪は刈り上げられたのか、チクチクと痛いくらいに尖っていた。
瞳も片方は異常なまでに腫れ上がって紫と言うよりも黒くなっていた。
きっとこちら側の瞳は失明していることだろう。
「俺を使えよザック!!どんなに質のいい大砲だってそれを使いこなせる奴が居なきゃ意味がねえだろ!!俺がお前の司令塔になる、レーダーになる、だから、俺を使え!!俺を使えばいいんだよ……っ!!」
「どうしてそうまでする」
「さあな、お前さんと友達になりたかったからかな」
ハッカーはそう言って笑った。
「一つだけずって覚えていたことがある」
「お前と共に過した2年半…俺は本当に楽しいと思ってたんだ」
「そんな、おい…そんな嘘だろ、なあっ……!!」
「すまんな…また同じ人生を辿ってまで、お前が死ななくてもいいと思った」
「俺は!!お前の為に死にたかったんだよザック……俺はお前の為に……!!記憶が無いふりまでして俺の為にお前が傷つくなんて!!望んじゃいねえよ!!」
「いかないでくれっ……どこにも……傍に居てくれよ……お願いだから……なあっ…傍に居てくれよ ザックっ…」
「…傍には居られん…泣くなプログレス」
俺達は相棒なんだろ…忘れやしないし終わりやしないさ。
プログレスはその人生でザカリーに殺される予定だったが、殺される日が来ることは無かった。
ザカリー・ポッターは死んだのに。
ザカリー・ポッターが死んだ時、ハッカーの心も死んだ。
ハッカーは望むことを止めた。
ザカリー・ポッターと、ハッカーとして、また同じ人生を歩めるようにということを。
それから先ザカリー・ポッターがハッカーを覚えている人生が来ることはただの1度も無かった。
延々と終わる事の無いルーチンワークの中、ハッカーもそのうちザカリー・ポッターを忘れた。
その言葉を言われる覚悟をいつの日だったか、いつの人生だったかで、していた気がする。
だがハッカーにはそれがいつだったのかも、それを本当に覚悟していたのかも、よく分からない。
言われて漸くああそりゃ言われるよな、なんて思ったくらいだった。
「俺は自分の為でも街の為でも無くお前の為に死んだんだよザック。
だから謝ることなんて無いさ、お前が望むからこそ死んだんだ……結果的にそれが街を救おうが何だろうが構わないがな…俺はお前の為に死んだんだよザック」
プログレスはこの時半分正直者でもう半分は嘘つきだった。
お前の為にとは言ったが、これはプログレスの我儘でもあったのだから。
「お前にゃ幸せになって欲しいんだよザック。俺の事なんか忘れちまえ、俺ももうお前の事は忘れるよ」
「プログレス」
「んだよ」
「お前との2年半、楽しかったぞ」
黒髪に琥珀の瞳を持った男は艶然と一笑した。
顔に傷はない。背も昔より低い。
しかし今までで1番ザカリー・ポッターだった。
「やめろよ。そんな事言うと俺、また次もその次もずっとお前のこと探しちまう。
それにな、忘れちまえだなんて言ってるけど本当は俺の方がやばいんだ。少しずつお前のこと忘れてんだよ。」
名前は分かる。だが髪の色は?瞳の色は?していた仕事は?入っていた組織は?好きな動物は?あだ名は?
たまに分からなくなる、そうして分からなくなったことに怯え必死に考え思い出す度に安堵していた。
「そうか…俺も実を言うとよく分からん
前回の記憶と言う記憶が無いんだ、ただ今のお前は髪色も瞳の色も同じで髪型も昔と同じだったから分かった」
「死にたくないよザック、俺、次もお前の事見つけられるか分かんねえもん……それに、お前が俺の事覚えてくれてるのかも分かんねえよ……鼻からお前が俺の事なんざ覚えちゃいないって前提ならよかった。でも、そうじゃないと分かっちまった手前そんなの耐えらんねえよ」
「これから俺が死ぬまで毎日俺にあってくれ、それで毎日昔話をしてくれ、勿論マリーアントワネットとかの話じゃない方の昔話だ。お前と、俺との2年半の話を」
「おいおい」
黒髪の男は思わずと言ったように目を瞬かせて掴まれた両手をそのままに気まずそうな面を浮かべた。
「お前それは中々まずいんじゃないのか?……あー…待て、おい…早とちるな…」
「プロポーズでも構わないっ…なんなら結構前の俺らは結婚して子も孫も居たんだからな」
「おい待て、今の話本当か?お前何やらかしてんだ」
そうして2人は再び"ザック"と"プログレス"として、友人として人生をはじめられた。
数十年後にザックが病死したがプログレスは満足していた。
この人生を糧にあと100遍は人生をやり直す事ができると思った。
だが、そうはいかなかった。
次の人生はあまりにも"同じ"人生だった。
組織のメンバーの名前も見た目も街も妻も子も全て一緒だった。
そしてハッカーは"以前"がそうであったようにヘマはしないよう動いた。
ハッカーの妻子は殺されなかった。
面倒事に巻き込まれず、職を手放す事もなく。
当然下水道に住み着くこともなかった。
ザックは?
ハッカーはそれでも尚ザカリー・ポッターを探した。
ザカリー・ポッターは確かに"居た"。
B区の鍵屋に人相の悪い男が確かに居た。
「誰だお前」
ザカリー・ポッターはハッカーを覚えていなかった。
そうして気づいた、これは2人の出会いをやり直していたのだと。
ハッカーはそれから毎日ザカリー・ポッターの元に通った。
せめて知り合いたいと、友人にだけでもと思った。
しかし男は用心深い。そこまで深い関係になれるはずもなかった。
下水道の下、髪を崩し酒を飲みながら笑っていた。
彼の中のザカリー・ポッターにはもう会えないのだ。
ハッカーはそれから20年程待った。
娘と息子が大学に慣れるまで大人しく仕事に従事し、ザカリー・ポッターの元を訪れていた。
しかしそんなハッカーの努力も虚しく報われることも無いまま。
ザカリー・ポッターは20年も経つ間もなく、途中で忽然と消えてしまった。
そうして20年程経ったある日、ザカリー・ポッターを見つけた。
オレンジの囚人服に血をデコレーションしたボロボロの状態で。
ゴミ捨て場で揶揄的な意味の方で"腐っていた"のだ。
彼は咄嗟に拾って匿った。
黒髪は刈り上げられたのか、チクチクと痛いくらいに尖っていた。
瞳も片方は異常なまでに腫れ上がって紫と言うよりも黒くなっていた。
きっとこちら側の瞳は失明していることだろう。
「俺を使えよザック!!どんなに質のいい大砲だってそれを使いこなせる奴が居なきゃ意味がねえだろ!!俺がお前の司令塔になる、レーダーになる、だから、俺を使え!!俺を使えばいいんだよ……っ!!」
「どうしてそうまでする」
「さあな、お前さんと友達になりたかったからかな」
ハッカーはそう言って笑った。
「一つだけずって覚えていたことがある」
「お前と共に過した2年半…俺は本当に楽しいと思ってたんだ」
「そんな、おい…そんな嘘だろ、なあっ……!!」
「すまんな…また同じ人生を辿ってまで、お前が死ななくてもいいと思った」
「俺は!!お前の為に死にたかったんだよザック……俺はお前の為に……!!記憶が無いふりまでして俺の為にお前が傷つくなんて!!望んじゃいねえよ!!」
「いかないでくれっ……どこにも……傍に居てくれよ……お願いだから……なあっ…傍に居てくれよ ザックっ…」
「…傍には居られん…泣くなプログレス」
俺達は相棒なんだろ…忘れやしないし終わりやしないさ。
プログレスはその人生でザカリーに殺される予定だったが、殺される日が来ることは無かった。
ザカリー・ポッターは死んだのに。
ザカリー・ポッターが死んだ時、ハッカーの心も死んだ。
ハッカーは望むことを止めた。
ザカリー・ポッターと、ハッカーとして、また同じ人生を歩めるようにということを。
それから先ザカリー・ポッターがハッカーを覚えている人生が来ることはただの1度も無かった。
延々と終わる事の無いルーチンワークの中、ハッカーもそのうちザカリー・ポッターを忘れた。