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彼と彼のサブ話

ハッカーは通りを挟んだ向こうからそれを確認し、思わず泣いた。
涙が止まらなかった、通りゆく人々も思わずと言ったように横目でハッカーを盗み見ていく。
恰好の見せ物だ。分かってはいたがどうにも出来なかった。
もう二度とこの場から動きたくないとすら彼は思った。


感傷に浸ったハッカーは下を向き、ただ黙々と哀哭していたが故にその時気づかなかった。
自身へと近づいてくる鍵屋の店主の存在に。



「おい、アンタ何泣いてんだ」


声をかけられた。
それを理解するのにハッカーの聡明なおツムを持ってしても、数秒が要した。
数秒とは言えハッカーの中では永遠にも思える瞬間とも言えた。
身体中が煮え滾るような、言い様のない衝動に身を焦がされてしまう。

衝動を抑えるべく肺へと無理矢理空気を押し込んだ、当然変な音が喉からもれる。
待望していた存在が近付いて来ていたことに気づく事ができたのはその存在がハッカーの目前、それも声をかけられてからだった。
ハッカーは必死に泣き止もうとしたが、とてもじゃないが無理だった。




「お、俺は……クリス……クリス・ハリソン」

「そうか…ハリソンと言うのか…いいかハリソン、大の男が泣くな……あー…ちなみに俺は…レオン、レオン・アーノルドだ」

その嗄れた声にまた涙が止まらなかった。
ザカリー・ポッターことレオン・アーノルドは困ったように頭を搔くと、とりあえず店に来いとクリスを誘った。


「クリス、お前はどうして泣いていた?あんなにも泣くほどの何かがお前にあったのか?」


「死んだと思っていた人が生きていたんだ」

「ほう、それはいい知らせだ…その相手は友人か何かか?」

「ああ、親友なんだ」

その瞬間レオンは片眉を顰めた。
ハッカーはその表情に思わずと言った息が漏れる。
片眉を顰める、何気ないその仕草がはるか昔の彼に重なるのを感じた。
ザカリー・ポッターにザカリー・ポッターの面影を感じるというのも変な話だが、その瞬間確かにハッカーは懐かしいと思ったのだ。

だからだろう、気が緩んでしまったのは。


「ザック…」

プログレスは思わずその名を口走ってしまった。
そうしてしまったという顔をした。
傍からしたらちょっとした独り言だ、多少違和感を持たれようともそんな相手の気を引くほどの物ではないだろう。
しかしこの名は彼の中ではとても神聖なものであった。
何度人生を巡ろうと、ザカリー・ポッターが偶然にも"ザック"と呼ばれる存在で無かった限りはこの名を呼んだりはしなかった。
だからこその"しまった"なのだ。



しかしここで思わぬ事態になる。
なんとザックと呼ばれた男が目を見開き、
「…プログレス?」と声を出したのだ。

プログレス。進歩する。
単語自体はよくあるものだ、だが今その言葉をつぶやくには話の流れがおかしい。
だが一つだけこの話の流れに沿わせられる方法があった。
プログレスとはハッカーのあだ名だったのだから。

「まさかプログレス…お前……本当にお前なのか?記憶がまさかあるのか?」

「あ る゛よ゛っ…んぐ…っ……ひっ……ざ……ザックそんな……ひっ……」

「おいおい……まさかお前それでさっきから泣いていたのか?」

ザックは呆れたように眉を顰めた、しかしその後大きなため息とともに相変わらずだな、と笑った。



「それにしてもクリス・ハリソンなんて名前を出すとはな、どうせ偽名だろお前」

「あちゃ〜バレちまったか…まあさすがにプログレスとか名乗った方がやばいだろ一応初対面なんだし」

「まあな、それは言えてる」

「ザックとまた話せて俺嬉しいよ、お前にずっとずっとずっと会いたかったんだ」
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