素朴な疑問
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ギャルソンさんは私に構わず本を読み続けている。
いつもならあの紳士的な笑顔と共に快く迎えてくださって、美味しい紅茶と共に少しだけ怖い話を聞かせてくれるはずなのに…。それがどうだろう、お茶を出してくれた所まではいつも通りだったけれども、そこからは無言でページを隅から隅まで念入りに読んでいるようだった。
あまりにも真剣に読んでいるものだから声をかけるのも躊躇われ、目の前にある温かい紅茶をすすりながらその横顔にちらちらと目配せしていた。
ギャルソンさんは時折こちらを見ては何を言うでもなく、そのまま目線を戻して本を読む。
「あの、ギャルソンさん?」
「…ん、あ…はい、なんでしょう?」
「何だかお邪魔みたいですし、私はこれで」
さすがに紅茶2杯目を飲み終えお腹も無言も限界で、今夜は諦め早々に帰ることにした。
「いやいや、お邪魔なんかじゃないですよ?私は一緒に居て楽しいですし」
「は、はあ…でも忙しそうだし」
決してマナーや礼儀を忘れないギャルソンさんだけれども、何も私が居る時に読まなくともいいじゃないですか…。
確かに一緒に居るのは楽しいけれども、何だか疎外感を感じた私は困り果ててしまう。そんな私の言葉にややあって自分から口を開いたギャルソンさんは、少し目を泳がせながら私以上に困った顔をしていた。
「その、ですね。ずっと気になってた事があって調べものを…ナマエさんが居る時に読まなくとも、と思ったのですがどうしても気になったもので」
「気になってた事、ですか?」
「ええ。私たちに関係のある事で…どうしても引っかがっているんです」
それが何なのか私にはわからず、首をかしげて何のことかと悩んでしまう。
するとギャルソンさんは私の横へとやってきて、寄り添うように腰をかけた。
「これです」
読書をしているということしか見ていなかったけれども、よくみれば何故か持っていたのは婚姻活用辞典。想像していた種類の本と違い、目をまんまるくしてしまった。
「これ、結婚式の本ですよね…?」
「ええそうですとも。あ、でも気になってるのはここです!これがずっと気になってて…」
分からない。あんなに難しい顔してたのに結婚式の流れが載っている本を読んでいたなんて。
そしてわからないと指差す部分を見てみれば、牧師の言葉、すなわち誓いの言葉だと言うのだから、本当に変わった人なのだと少し呆れてしまう。
「どうしても、どーしても…気になるんです」
「そう、なんですか…?具体的にどう…」
「それはですねえ」
<死が二人を別つまで、病めるときも健やかなる時も生涯愛を誓います。>
指差す先に書かれたのは誓いの言葉。聖書の一文だった。うっすらこの人に聖書は効かないのねと思ってしまったことを頭の中で謝っていると、ギャルソンさんは本を閉じてぽんっと私の頭に軽く押し当てた。
「私がナマエさんの事を愛していると、その愛はいつまで有効なんでしょうか?」
ギャルソンさんはそう言って、にやりとこちらをみて不敵に笑った。
少ししてようやく意味がわかり、顔が火照る。
「わ、私が指摘するの待ってたんですか!?」
「遅いですよ、遅すぎて引くに引けなくなっちゃったじゃないですか」
「知りませんよ!もー!お腹たぷたぷです!」
「…ほう?じゃあちょっと見せてもら」
「帰る!」
「おやおや?」
随分と焦らされた挙句騙されたはずなのに、心から嬉しいのは貴方が隣に居る所為なのでしょうか。
fin
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