献花
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「おや?これは珍しい…随分と可愛らしいお客様がいらしたことで」
「きゃあ!!」
小さな悲鳴を上げてしまったのであの男に気付かれたかと思って慌てて自分で口を塞いだの。でもあの時は本当にびっくりしたわ…だってタキシードを着た男の人が私を覗き込んでいるんだもの。てっきり廃墟だと思ってたそこは、綺麗な赤じゅうたんにシャンデリア、小洒落た内装でまるで新築のレストランのようだったの。
「あ…こ、ここ営業してたんですか…?」
「ええまあ…それよりもどうなさったのですか。年頃のお嬢さんが息を切らして入ってくるなんて、殺人鬼にでも追われているみたいじゃないですか」
「!」
優雅に話している暇がない事をやっとそこで思い出したの。誰でもいいから助けて欲しかった私にとって、店が営業している事がどれだけ救いになった事か…初対面の人に頼みごとをするのは基本的にあまりいい事ではないけれど、事態が事態なので、タキシードの男の人にしがみ付いて事情を話したの。
「刃物を持った男の人に追われてるんです!お願い、助けて下さい…!」
「冗談だったんですけど…随分と恐ろしい目にあっているみたいですね。どれどれ?」
こんなに私が必死に言っているのに表情一つ変えない男の人は、私の肩を抱きながらゆっくりと扉を少しだけ開けて外を覗き込んだ。あの男が入ってくるんじゃないかと凄く怖かったけど、これでどうにか助かるって安心したわ。だけど世の中そうもいかなくて、やっぱり私は安心させてもらえなかったの。
「ふむ…血眼の刃物を持った男性がきょろきょろしてますねぇ」
「そ、そうなんです!だから早く警察に…!」
「まあまあ、そう焦らずに。奥でゆっくりお話を聞きましょうか」
「なっ何言って…!」
この人がちょっとおかしい事にも気がつき始めたわ。だって、自分の目で危ない人が店の前に居るのを見たのよ?それで焦らず話をするっておかしいとしか言いようが無いもの。やっと助かると思った私は男の人に連れられるがまま、店の奥へと連れて行かれたの。
奥の部屋もやっぱり綺麗で、年代モノのアンティークみたいな椅子とテーブルが置いてあって、座らされた椅子はふかふかしていたわ。だけど外が気になって仕方が無い私は怖くて怖くて、男の人が向かいの椅子に座ると無理やり自分の座った椅子を持って横に並べてしがみ付いたの。怖いもの、本当に怖かったから失礼だったかもしれないけど、とにかく私は誰かにすがりつくしかなかったの。男の人は笑いながら大丈夫だと言ってたけど、全く安心できなかったわ。
「ふふ、そう怖がらずに。何がどうしてこうなったのですか?よろしければお話をお聞かせ願いたいのですがね。」
「…」
私は今までの事を全て話したわ。どんな状況でも今はこの人に助けを求めるしかないんだもの…だけど男の人も不思議で、さっきから他人事のように大丈夫だと言ってたのに親身になって聞いてくれて、私も話しているうちに段々と冷静になっていくのが分かったわ。話し終わったときには身体の震えも止まっていて、しがみついている事が恥ずかしいとさえ思えてきたの。
「…それはそれは。酷く歪んだ愛の押し付けですねえ…でもよく話してくださいました。」
「いえ…私こそパニックになってて…今、ちょっと落ち着きました」
「人が恐怖に震えるのは常ですから。落ち着かれたのなら幸いです」
「あの…それより外のあの人は…」
話している間、全くと言っていいほど外の音が聞こえなかった事に気付いたの。もしかしたらあの男も諦めて引き返したのでは…そう安心していると、タキシードの男の人は不気味に笑いながら言ったの。
「ああ、もう店の中ですよ」
「…え?」
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