すたんどばいみー
・20××年×月×日
自律巡回型警備システムRH-001,本日より東京駅並びに近隣施設にて警備システムとして稼働。バックアップデータ並びに人工知能併載型最新機種のため自己学習によって内部構造変更後も運用が可能。音声機能テスト開始
「今日も一日、お客さまの笑顔のために!」
・20○○年×月×日
施設利用者の減少につき稼働時間の削減を提案。
1日の大半をスリープモードにて稼働。省エネシステムの最適化を促進。音声機能テスト開始
「今日も…ち…まの…笑顔のために…」
・2×××年×月×日
メンテナンス不足によるパフォーマンス低下を確認。人工知能の最適化を優先。
センサー不具合による把握能力低下を疑似的な思考力により補佐。獲得まで時間が必要。
「ぴ…が…ま…のえが…に…」
・××××年×月×日
現在当機配属巡回コースにてお客様とのミート回数が0。この記録は×××××××日間連続なものとなります。担当者は直ちにオペレーターオフィスと経営部門に相談の上業績回復に努めてください。
「が…ぴ…がが…」
「大丈夫、これはただの警備ロボット。」
音声を認識。お客さまです。××××××××××××日ぶりのお客様です。お客さま、一名様。当施設は豊富なションピングモールに加えて季節の食材が楽しめるレストラン、地下にはお土産せんようフロアもございます。しかしこちらの記録はアップデートがされておりません。最新の記録との照会をされたい場合は管理センター、もしくはインフォメーションセンターまでお越しください。ごゆっくりお楽しみくださいませ。今日も一日お客さまの笑顔のために!
「ぎ…ぎがが…ががぁ…」
音声機能の不具合を確認。メンテナンス申請不受理。他サンプル音声起動。
ご用件をお伺いいたします。
「がび…ぴびぴ…」
いらっしゃいませ
「ぴ…がが…ぴが…」
ごゆっくりどうぞ
「びが…びび…」
出力機能、不具合検出。お客さまへのサービス提供不可能。繰り返します。お客様へのサービス提供不可能。トラブルシューティングへの依頼、累計×××××××××件、累積中。
「ほら、帰るぞお前ら。今から帰ればまだ日があるうちに帰れるからな。」
お客様が帰られてしまう。否、サービスの不提供状態であれば必然と判断。必要語彙再検索。
お帰りになられるお客様への言葉
「び…が…と…ござ…がががた…」
------------------------------------------------------------
万次郎の背中に駅で拾った使えそうな物質を乗せて帰路に着く。
はるか昔にはきっと線路であったのであろう道をテクテクと歩いていく。
「こんな映画あるよねー!」
「死体探しにいくやつだろ?」
「廃線になった線路をオレらはどこまでも歩くのだー!」
日も傾き始めてきたのに元気なものだ。大した発見もなかったが今日一日は有意義だったのかもしれないと俺の中では思えているが、こいつらにとって今日1日はどんな意味があるのだろうか。
意味、と考えて先程駅で出会ったロボットを考える。
巡回警備型ロボット。警備を兼ねて施設内を巡回し客を案内する。人工知能がついていると聞いたことがある気がするが、所詮はロボットだ。別に感情があるわけではないだろうが、もしもだ。もし万が一人工知能の自己進化の結果、感情に近いようなものを彼が獲得したら。
誰も来なくなったショッピングモール、返事のないメンテナンス申請、そんな中でも住み着こうとする野生動物たちを追い払いつづける独りぼっちのロボットの姿。
命もないのに彼の境遇を可哀想と思うのは俺がこんな寂しい世界で生きているからこそ生まれてしまった擬人化の感傷なのか、それともあのロボットが本当に寂しいなんて感情に近いものを獲得していたのかはわからない。
一つだけ間違いのないことは、彼はこれからも毎日あそこを守り続けるだろうということだけだ。
来る日もくる日もあそこを守り、お客様が来るのを待っている。いもしない、二度とくることのないお客様を待ってる。かつての主人の帰還を、いつかくるあたらしい主人を。
風に吹かれて、鉄が錆びて、ボロボロにタイヤが摩耗して動けなくなって、センサーが壊れて周りがわからなくなっても。
人間は誰かに必要とされることで初めて自己を確立できる。たとえばそれがプラスであれマイナスであれ、そこに対して差異は無く自分を自分として定義することができるのだ。
こんな世界に1人で生きていく俺にはあのロボットが心底羨ましかった。
だからこそ俺はあいつを可哀想だと思いたいのだ。
あいつは惨めで、哀れで、俺の方がよっぽど救われてて、俺はこんな状態でも恵まれてるって自分で思いたいのだ。
とうとう無機物と自分を比べ始めていることになんてとっくに気づいている。それでもそうせずにはいられないんだ。
「万次郎のつがいにあのロボットを加えよう!」
「でも万次郎、メスだよ?」
「あのロボットはオスかもしれないだろう!」
「ロボと馬のハーフだ!かっこいいな!」
「豆にいちゃんが朝言ってたやつみたいにロマンチックだねー!」
「あん?あぁ、恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は恋の前で無力になるってやつか?そんなにロマンチックかこれ?」
「わかんなーい」
「あっはっはっはっ」
毛玉どもの会話が遠くなるほど辛い考えが深い海の底に沈んでいく。
恋とは夢見る心。俺は人と言う存在に焦がれている。それこそ夢に見るくらい。実際に会える人間がいいやつとは限らない。それこそこんな世界だ、あったところできっと嫌な目に会うだけの可能性の方がずっと高い。
それでも人に夢を見ている。
あのロボットよりよっぽどロマンチックておめでたい思考をしている自分を鼻で笑いたくなる。
結局こうして人がいない現実の前で折れているんだ。たまにはいいこと言うじゃないか毛玉。
最後に発したロボットの音声が耳の奥に嫌に残りつづけながら、僕らは廃線になった線路の上を歩き続けたのだった。
自律巡回型警備システムRH-001,本日より東京駅並びに近隣施設にて警備システムとして稼働。バックアップデータ並びに人工知能併載型最新機種のため自己学習によって内部構造変更後も運用が可能。音声機能テスト開始
「今日も一日、お客さまの笑顔のために!」
・20○○年×月×日
施設利用者の減少につき稼働時間の削減を提案。
1日の大半をスリープモードにて稼働。省エネシステムの最適化を促進。音声機能テスト開始
「今日も…ち…まの…笑顔のために…」
・2×××年×月×日
メンテナンス不足によるパフォーマンス低下を確認。人工知能の最適化を優先。
センサー不具合による把握能力低下を疑似的な思考力により補佐。獲得まで時間が必要。
「ぴ…が…ま…のえが…に…」
・××××年×月×日
現在当機配属巡回コースにてお客様とのミート回数が0。この記録は×××××××日間連続なものとなります。担当者は直ちにオペレーターオフィスと経営部門に相談の上業績回復に努めてください。
「が…ぴ…がが…」
「大丈夫、これはただの警備ロボット。」
音声を認識。お客さまです。××××××××××××日ぶりのお客様です。お客さま、一名様。当施設は豊富なションピングモールに加えて季節の食材が楽しめるレストラン、地下にはお土産せんようフロアもございます。しかしこちらの記録はアップデートがされておりません。最新の記録との照会をされたい場合は管理センター、もしくはインフォメーションセンターまでお越しください。ごゆっくりお楽しみくださいませ。今日も一日お客さまの笑顔のために!
「ぎ…ぎがが…ががぁ…」
音声機能の不具合を確認。メンテナンス申請不受理。他サンプル音声起動。
ご用件をお伺いいたします。
「がび…ぴびぴ…」
いらっしゃいませ
「ぴ…がが…ぴが…」
ごゆっくりどうぞ
「びが…びび…」
出力機能、不具合検出。お客さまへのサービス提供不可能。繰り返します。お客様へのサービス提供不可能。トラブルシューティングへの依頼、累計×××××××××件、累積中。
「ほら、帰るぞお前ら。今から帰ればまだ日があるうちに帰れるからな。」
お客様が帰られてしまう。否、サービスの不提供状態であれば必然と判断。必要語彙再検索。
お帰りになられるお客様への言葉
「び…が…と…ござ…がががた…」
------------------------------------------------------------
万次郎の背中に駅で拾った使えそうな物質を乗せて帰路に着く。
はるか昔にはきっと線路であったのであろう道をテクテクと歩いていく。
「こんな映画あるよねー!」
「死体探しにいくやつだろ?」
「廃線になった線路をオレらはどこまでも歩くのだー!」
日も傾き始めてきたのに元気なものだ。大した発見もなかったが今日一日は有意義だったのかもしれないと俺の中では思えているが、こいつらにとって今日1日はどんな意味があるのだろうか。
意味、と考えて先程駅で出会ったロボットを考える。
巡回警備型ロボット。警備を兼ねて施設内を巡回し客を案内する。人工知能がついていると聞いたことがある気がするが、所詮はロボットだ。別に感情があるわけではないだろうが、もしもだ。もし万が一人工知能の自己進化の結果、感情に近いようなものを彼が獲得したら。
誰も来なくなったショッピングモール、返事のないメンテナンス申請、そんな中でも住み着こうとする野生動物たちを追い払いつづける独りぼっちのロボットの姿。
命もないのに彼の境遇を可哀想と思うのは俺がこんな寂しい世界で生きているからこそ生まれてしまった擬人化の感傷なのか、それともあのロボットが本当に寂しいなんて感情に近いものを獲得していたのかはわからない。
一つだけ間違いのないことは、彼はこれからも毎日あそこを守り続けるだろうということだけだ。
来る日もくる日もあそこを守り、お客様が来るのを待っている。いもしない、二度とくることのないお客様を待ってる。かつての主人の帰還を、いつかくるあたらしい主人を。
風に吹かれて、鉄が錆びて、ボロボロにタイヤが摩耗して動けなくなって、センサーが壊れて周りがわからなくなっても。
人間は誰かに必要とされることで初めて自己を確立できる。たとえばそれがプラスであれマイナスであれ、そこに対して差異は無く自分を自分として定義することができるのだ。
こんな世界に1人で生きていく俺にはあのロボットが心底羨ましかった。
だからこそ俺はあいつを可哀想だと思いたいのだ。
あいつは惨めで、哀れで、俺の方がよっぽど救われてて、俺はこんな状態でも恵まれてるって自分で思いたいのだ。
とうとう無機物と自分を比べ始めていることになんてとっくに気づいている。それでもそうせずにはいられないんだ。
「万次郎のつがいにあのロボットを加えよう!」
「でも万次郎、メスだよ?」
「あのロボットはオスかもしれないだろう!」
「ロボと馬のハーフだ!かっこいいな!」
「豆にいちゃんが朝言ってたやつみたいにロマンチックだねー!」
「あん?あぁ、恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は恋の前で無力になるってやつか?そんなにロマンチックかこれ?」
「わかんなーい」
「あっはっはっはっ」
毛玉どもの会話が遠くなるほど辛い考えが深い海の底に沈んでいく。
恋とは夢見る心。俺は人と言う存在に焦がれている。それこそ夢に見るくらい。実際に会える人間がいいやつとは限らない。それこそこんな世界だ、あったところできっと嫌な目に会うだけの可能性の方がずっと高い。
それでも人に夢を見ている。
あのロボットよりよっぽどロマンチックておめでたい思考をしている自分を鼻で笑いたくなる。
結局こうして人がいない現実の前で折れているんだ。たまにはいいこと言うじゃないか毛玉。
最後に発したロボットの音声が耳の奥に嫌に残りつづけながら、僕らは廃線になった線路の上を歩き続けたのだった。
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