すたんどばいみー
腰が痛い。
はるか昔にはきっと塗装されたいたのであろうコンクリート達が本来見せるべきではない断面達が自己主張激しく晴天の下露わになっている。
暑い日差しはもちろんだが、この悪路を馬に似ているがバクのような口をした奇天烈極まりない動物に乗りながらこの悪路に悪態をつく。
優雅な乗馬の旅だと聞いていたがこれではどちらかというとドナドナされている奴隷か何かの気分だ。
「そろそろつくですかー?」
お腹に張り付いていた体温から声が上がる
「まだまだ。もう飽きちゃったかー?」
煽るように聞き返すと慌てた毛玉が眼前に広がった。
「そんなことないやい!おれのぷりちーなお尻が悲鳴を上げてるんだ!!」
フサフサな中に覆われたプリケツをこちらに突き出してくる。ズボンの一部には穴が空いていてそこから茶色くて黒い長い尻尾が飛び出していた。
顔はまるでたぬきのような造形だが、マズルは低く骨格も人間のものに近いものに見える。
半袖短パンというこの春先には少し肌寒いように感じる装いだが、子供体温の彼にとってはむしろ暑いくらいなのかもしれない。
「あー、わかったわかった。わかったからけつを押し付けるな。ただでさえお前らのせいで暑いんだ。もっと暑苦しくするんじゃねぇ」
肌感覚ではまだ4月程度のはずなのに毛玉に体を覆われていては夏の炎天下のような気分になってくる。
「へっ、軟弱者ー!都会っ子!もやしっこー!」
背中にしがみつく毛玉から声がする。
この目で見えていなくても、きっとガキ大将のような意地の悪い顔をしながらニヤニヤと笑っていることだろう。トレードマークの頭の上の葉っぱを乗せながらよく落とさずそんなに器用に動ける物だと普段から感心している。
「豆にいちゃん、ダメだよ!それは『ぱわはら』ってやつで捕まるんだよ!」
「なんだって!おいお前、今のはなしだぞ!ボイスレコーダーもなしだ!ちゃんとデータは削除しては法務には何も問題はありませんでしたって報告するんだぞ!!」
腹と背中で唐突に漫才が始まる。
いや、本人達からしたら別に漫才でもなく本気でそう思って言っているのだ。
彼らはどこからか仕入れてきた知識を元に彼らなりの会話をしてるだけにすぎない。
「豆にぃ、やっちゃったね。なぁなぁ、そんがいばいしょーはいくらもらう?オレな、しゃとーぶりあんってやつ食べてみたい!」
背中の毛玉のさらにその背中にしがみついていた毛玉が声を上げる。
そもそも先程のはパワハラではなくモラハラだとか、なんでそんなやっちゃいけない対応のお手本みたいなクズムーブをしているんだとか、万が一裁判をやったとしてなぜお前にそんな最高級の肉を食わせにゃならんのだとか、そもそも裁判所も肉屋もとっくの昔に無くなっているとか、ツッコミたい所は多すぎるがいちいち拾っていてはこちらの身が持たない。
「おい団!お前裏切んのか!お兄ちゃん悲しいぞー!」
「3つ子にお兄ちゃんなんてありませーんだ!だいたい最初から味方じゃないし」
背中で毛玉2人がやんややんやと言い争いを始めたのを尻目にはるか先の目的地に目を見遣る。
そろそろ土地勘的には虎ノ門の付近のはずだ。しかし眼前に広がるのは聳え立つ高層ビル群ではなく、崩れかけのビルや崩落した建物、そしてそれらにまとわりつく蔦と侵食する植物達。そんな植物達を啄む謎の小動物や小鳥達の姿だった。
「ここも他とおんなじかぁ…」
ひとり肩を落としながらごちる。
事の発端はいつものごとくこの毛玉どもが、「人を見た!」というのでそのヒントを元にこうして足を運んでいるのだ。普段であれば見間違いであろうと無視をしていた。なんせかれこれここにきてから何ヶ月も人はおろか人の痕跡をみいないのだ。
以前なんてこの葉でできた山を人だ!と報告してきたこいつらである。当然俺の中の信用は無いに等しい。
しかし今回は場所が東京駅だと言う。都市伝説ではあるが東京駅の地下には地下都市が造られているとか核シェルターがあるとか聞いたことがある。
もしかしたら。そう万が一そんな場所があるとしたら。
そう思わずにはいられなかった。
「人の愛というのはふへんてきなんじゃないの?」
「いいや、違うね!愛とはすなわち求める心。そして恋とはすなわち夢見る心だ!ゆえにこそ!恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になるんだ!」
「愛なんてしょせん恋の前では無力なんだね!!」
「ひどいよ!そんなの悲しすぎるよぉ…」
一体なんの話をしてるんだこの毛玉どもは。
なぜ損害賠償やらパワハラの話からそんな壮大な愛やら恋やらの話が出てくる。
三男に至っては一番後ろで長男の背中にしがみついてグスグスと泣いている。
人がせっかく思考の海に沈んでいたのに無理やり引きずり上げられた気分だ。いや、そもそもこいつらの前で考え事なんざしようとしていた自分が愚かだったのかもしれない。
「ねーねー」
さっきまで騒いでいた前の毛玉がこちらに向き直っている。
くりくりとしたまん丸の目と2本眉柄トレードマークだが、ほっぺたは驚くほどもちもちなためこうして顔が高いとついもちもちしたくなる衝動に駆られてしまう。
「万次郎も疲れたし、道もデコボコしてるからこっからはあるこーよー。」
万次郎は今我々が乗っている馬もどきの名前である。当然こいつらが勝手に命名した。
「なんだよ芝、お前こいつの言葉がわかるのか。」
感心した俺は毛玉に問う。さすがは動物同士、人間の俺にはわからないが何か特別なコミュニケーション方法でもあるのだろうか。
「ううん、勘。」
勘かぁ…。
「承太郎!ありがとな!」
「サンキュー!弥太郎!」
ケロッと告げた次男に続いて背中から長男と三男が飛び降りる。
と言うかこいつの名前は万次郎じゃなかったのか。せめてお前らの中で統一してほしい。
「ピクニックだね!」
楽しそうに言う次男。しかし芝くんや、ピクニックとは歩くものだ。俺のお腹にコアラのごとく張り付いたまま移動するのはピクニックと果たして言うのだろうか?
それを見ていた豆がすかさず額にシワを寄せて言ってくる。さすが長男だ。ここはガツンと叱ってくれ。
「お弁当ないからピクニックにはならないだろ!」
違う、そうじゃない。指摘して欲しかったのはそこじゃないんだおにいちゃん。
ずり落ちないようにより力を入れてくる芝をなんとか引き剥がそうと奮闘する俺の目の前に団ちゃんがぷりぷりとほっぺを膨らませて現れた。細めの目にくりくりした黒目とサラサラの前髪のこの三男坊は何を隠そうこの中で1番のしっかり物だ。甘ったれのお兄ちゃんにガツンと言ってやってくれ。
「おいお前!芝にぃにあんまりベタベタするなよこの変態!」
俺にガツンと言うのかよ。
むしろ抱きつかれてるのは俺なのだから俺が被害を訴えてはだめなのか。
「芝にぃの毛並みは確かに一番ふわふわだけどなぁ…お、俺だって負けてないんだぞ!」
抱っこを禁止したいのか抱っこしてほしいのかどっちかはっきりしなさい。俺としても困ってしまう。何より君たちのその魅惑の毛並みは確かに抗い難いのだ。
「えっと…ごめんね。俺には豆にいちゃんも団ちゃんもいるから…」
腹にくっついていた毛玉がピョンと地面に飛び去った。
なんだろう、当初の目的は果たしたはずなのにどこか腑に落ちないこの感覚。
脱力した体に力を入れ直し脚に再び力を入れる。足元の割れたコンクリートやガラス片に注意しながら目的地を目指さなくてはならないのだ。
「はーるきゃーべつーなーつきゃーべつー」
「ぐるっとまわって!」
「ふゆ…はくさい…」
「おいこら団!声が小さいぞ!」
「だってなんだよこの変な歌!恥ずかしいよ!」
毛玉の声だけがビルの残骸に、文明の残滓に木霊する。
自分の知らないくらい青い空を眺めながら3匹と1人はゆっくりとそして騒がしく歩き始めるのであった。
はるか昔にはきっと塗装されたいたのであろうコンクリート達が本来見せるべきではない断面達が自己主張激しく晴天の下露わになっている。
暑い日差しはもちろんだが、この悪路を馬に似ているがバクのような口をした奇天烈極まりない動物に乗りながらこの悪路に悪態をつく。
優雅な乗馬の旅だと聞いていたがこれではどちらかというとドナドナされている奴隷か何かの気分だ。
「そろそろつくですかー?」
お腹に張り付いていた体温から声が上がる
「まだまだ。もう飽きちゃったかー?」
煽るように聞き返すと慌てた毛玉が眼前に広がった。
「そんなことないやい!おれのぷりちーなお尻が悲鳴を上げてるんだ!!」
フサフサな中に覆われたプリケツをこちらに突き出してくる。ズボンの一部には穴が空いていてそこから茶色くて黒い長い尻尾が飛び出していた。
顔はまるでたぬきのような造形だが、マズルは低く骨格も人間のものに近いものに見える。
半袖短パンというこの春先には少し肌寒いように感じる装いだが、子供体温の彼にとってはむしろ暑いくらいなのかもしれない。
「あー、わかったわかった。わかったからけつを押し付けるな。ただでさえお前らのせいで暑いんだ。もっと暑苦しくするんじゃねぇ」
肌感覚ではまだ4月程度のはずなのに毛玉に体を覆われていては夏の炎天下のような気分になってくる。
「へっ、軟弱者ー!都会っ子!もやしっこー!」
背中にしがみつく毛玉から声がする。
この目で見えていなくても、きっとガキ大将のような意地の悪い顔をしながらニヤニヤと笑っていることだろう。トレードマークの頭の上の葉っぱを乗せながらよく落とさずそんなに器用に動ける物だと普段から感心している。
「豆にいちゃん、ダメだよ!それは『ぱわはら』ってやつで捕まるんだよ!」
「なんだって!おいお前、今のはなしだぞ!ボイスレコーダーもなしだ!ちゃんとデータは削除しては法務には何も問題はありませんでしたって報告するんだぞ!!」
腹と背中で唐突に漫才が始まる。
いや、本人達からしたら別に漫才でもなく本気でそう思って言っているのだ。
彼らはどこからか仕入れてきた知識を元に彼らなりの会話をしてるだけにすぎない。
「豆にぃ、やっちゃったね。なぁなぁ、そんがいばいしょーはいくらもらう?オレな、しゃとーぶりあんってやつ食べてみたい!」
背中の毛玉のさらにその背中にしがみついていた毛玉が声を上げる。
そもそも先程のはパワハラではなくモラハラだとか、なんでそんなやっちゃいけない対応のお手本みたいなクズムーブをしているんだとか、万が一裁判をやったとしてなぜお前にそんな最高級の肉を食わせにゃならんのだとか、そもそも裁判所も肉屋もとっくの昔に無くなっているとか、ツッコミたい所は多すぎるがいちいち拾っていてはこちらの身が持たない。
「おい団!お前裏切んのか!お兄ちゃん悲しいぞー!」
「3つ子にお兄ちゃんなんてありませーんだ!だいたい最初から味方じゃないし」
背中で毛玉2人がやんややんやと言い争いを始めたのを尻目にはるか先の目的地に目を見遣る。
そろそろ土地勘的には虎ノ門の付近のはずだ。しかし眼前に広がるのは聳え立つ高層ビル群ではなく、崩れかけのビルや崩落した建物、そしてそれらにまとわりつく蔦と侵食する植物達。そんな植物達を啄む謎の小動物や小鳥達の姿だった。
「ここも他とおんなじかぁ…」
ひとり肩を落としながらごちる。
事の発端はいつものごとくこの毛玉どもが、「人を見た!」というのでそのヒントを元にこうして足を運んでいるのだ。普段であれば見間違いであろうと無視をしていた。なんせかれこれここにきてから何ヶ月も人はおろか人の痕跡をみいないのだ。
以前なんてこの葉でできた山を人だ!と報告してきたこいつらである。当然俺の中の信用は無いに等しい。
しかし今回は場所が東京駅だと言う。都市伝説ではあるが東京駅の地下には地下都市が造られているとか核シェルターがあるとか聞いたことがある。
もしかしたら。そう万が一そんな場所があるとしたら。
そう思わずにはいられなかった。
「人の愛というのはふへんてきなんじゃないの?」
「いいや、違うね!愛とはすなわち求める心。そして恋とはすなわち夢見る心だ!ゆえにこそ!恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になるんだ!」
「愛なんてしょせん恋の前では無力なんだね!!」
「ひどいよ!そんなの悲しすぎるよぉ…」
一体なんの話をしてるんだこの毛玉どもは。
なぜ損害賠償やらパワハラの話からそんな壮大な愛やら恋やらの話が出てくる。
三男に至っては一番後ろで長男の背中にしがみついてグスグスと泣いている。
人がせっかく思考の海に沈んでいたのに無理やり引きずり上げられた気分だ。いや、そもそもこいつらの前で考え事なんざしようとしていた自分が愚かだったのかもしれない。
「ねーねー」
さっきまで騒いでいた前の毛玉がこちらに向き直っている。
くりくりとしたまん丸の目と2本眉柄トレードマークだが、ほっぺたは驚くほどもちもちなためこうして顔が高いとついもちもちしたくなる衝動に駆られてしまう。
「万次郎も疲れたし、道もデコボコしてるからこっからはあるこーよー。」
万次郎は今我々が乗っている馬もどきの名前である。当然こいつらが勝手に命名した。
「なんだよ芝、お前こいつの言葉がわかるのか。」
感心した俺は毛玉に問う。さすがは動物同士、人間の俺にはわからないが何か特別なコミュニケーション方法でもあるのだろうか。
「ううん、勘。」
勘かぁ…。
「承太郎!ありがとな!」
「サンキュー!弥太郎!」
ケロッと告げた次男に続いて背中から長男と三男が飛び降りる。
と言うかこいつの名前は万次郎じゃなかったのか。せめてお前らの中で統一してほしい。
「ピクニックだね!」
楽しそうに言う次男。しかし芝くんや、ピクニックとは歩くものだ。俺のお腹にコアラのごとく張り付いたまま移動するのはピクニックと果たして言うのだろうか?
それを見ていた豆がすかさず額にシワを寄せて言ってくる。さすが長男だ。ここはガツンと叱ってくれ。
「お弁当ないからピクニックにはならないだろ!」
違う、そうじゃない。指摘して欲しかったのはそこじゃないんだおにいちゃん。
ずり落ちないようにより力を入れてくる芝をなんとか引き剥がそうと奮闘する俺の目の前に団ちゃんがぷりぷりとほっぺを膨らませて現れた。細めの目にくりくりした黒目とサラサラの前髪のこの三男坊は何を隠そうこの中で1番のしっかり物だ。甘ったれのお兄ちゃんにガツンと言ってやってくれ。
「おいお前!芝にぃにあんまりベタベタするなよこの変態!」
俺にガツンと言うのかよ。
むしろ抱きつかれてるのは俺なのだから俺が被害を訴えてはだめなのか。
「芝にぃの毛並みは確かに一番ふわふわだけどなぁ…お、俺だって負けてないんだぞ!」
抱っこを禁止したいのか抱っこしてほしいのかどっちかはっきりしなさい。俺としても困ってしまう。何より君たちのその魅惑の毛並みは確かに抗い難いのだ。
「えっと…ごめんね。俺には豆にいちゃんも団ちゃんもいるから…」
腹にくっついていた毛玉がピョンと地面に飛び去った。
なんだろう、当初の目的は果たしたはずなのにどこか腑に落ちないこの感覚。
脱力した体に力を入れ直し脚に再び力を入れる。足元の割れたコンクリートやガラス片に注意しながら目的地を目指さなくてはならないのだ。
「はーるきゃーべつーなーつきゃーべつー」
「ぐるっとまわって!」
「ふゆ…はくさい…」
「おいこら団!声が小さいぞ!」
「だってなんだよこの変な歌!恥ずかしいよ!」
毛玉の声だけがビルの残骸に、文明の残滓に木霊する。
自分の知らないくらい青い空を眺めながら3匹と1人はゆっくりとそして騒がしく歩き始めるのであった。
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