1,Welcome to 【イマジニング・オブ・ユートピア】 !!

 できることが無限大にあるからこそ、思い描く理想郷により近づけるのがこのフルダイブ型VRMMORPG!【イマジニング・オブ・ユートピア】にログインして、あなただけの理想郷を描き出そう! スタートダッシュキャンペーン開催中! 詳しくは……

『は〜懐かしい! ねぇ、CM見てIoUについてなんとなくわかった?』

 映像があらかた終わり、弾んだ声がゆうの耳に飛び込んでくる。先日プレイしていたゲームをクリアしたところ、どこから聞きつけたのか従兄である礼哉れいやから布教の連絡が来たのだ。
 
「まぁだいたいは。何、随分推すね礼哉くん」
『だって悠は考察とかストーリー重視のゲーム好きでしょ? 絶対ハマると思って。どうかなーって』
「まぁそりゃあ好きだけど……本音は?」
『同じゲームやってる仲間がほしいんだけど、大学の友達とやるよりは同じ熱量をわかってくれる人としたいっていうか……、悠なら俺がオタクなの知ってるし問題ないかと思って……』

 『ねぇ聞いてる!?』という声をヘッドギアのスピーカーを通して聞き流しながら、ゲームデータのダウンロード状況を確認した。
 IoU。フルダイブ型VRMMORPG【イマジニング・オブ・ユートピア】の略称だ。ダウンロードにかかる時間を見るに、今までしたゲームよりもボリュームがありそうで腕がなる。

『選んだ職業によって最初の街決まるんだけど、何にするかはもう決めた?』
「まだ迷い中。アタッカーかヒーラーで悩んでるんだけど、せっかくファンタジー世界のⅤRなら魔法系がいい」

 悠は仮想空間に別ウィンドウで開いていた公式ホームページの職業一覧を眺めていた。ずらりと並べられた職業を見ているとわくわくしてくるのは、ゲームをする人間であればあるあるだと思う。
 
『なら白魔術士にすれば? 攻撃も回復も両方出来るし、悠はなんだかんだよく気がつくから向いてると思う』

 幼い頃から親戚が集まる時子供同士で固まって遊ぶのは、決まってゲームだった。彼とは歳も近く、親戚の子供たちの中に男子が二人だけだったのもあってよく一緒に遊んでいたのを覚えている。
 今ではレトロゲームとも言えるディスプレイとコントローラーを使うものではあったものの、ゲーム好きな彼は様々なゲームを持ってきてくれた。好みが似ているのか彼が持ってくるものはどれもすごく楽しかった記憶がある。
 つまり、彼がすすめるものにハズレは無いのだ。少なくとも悠はそう思っている。
 
「サポートなら全体が見やすそうだし、慣れるまでちょうどいいかな」
『そんなの始めたばかりの時は気にしなくていいのに。まぁ合わなければ変えられるし! 白魔術士となるとスタートはシートレスって街でね、海の都だから景色綺麗だよ』

 海。最近旅行なんかも行かないし、ゲーム内とはいえ見るのはちょっと楽しみかもしれない。
 悠はいくつか開いていたウィンドウを閉じて仮想空間から現実に戻る準備を始める。明日は大学が休みだし、きっとストーリーをぶっ通しで進めることになる。先に昼食をとって準備を整えてから、改めてIoUの世界へ飛び込むことに決めていた。

「んじゃ先に落ちる。この後はどうすんの?」
『そりゃあログインしますとも! あっそうだフレンドになるんだったらログインしてから直接会った方が都合がいいよね。ある程度進んだらシートレスで待ち合わせしよう、連絡ちょうだい』
「はいはい。またあとで」

 万全な状態でダイブするためにも、昨日買っておいたメロンパンと鮭おにぎりを胃の中にしっかり収めてから、急ぎ足に支度した。腹が減っては戦ができぬとも言うし。

『あんたまた礼哉くんとゲームで遊んでるんだって?』
 
 なんて母親からのメールには適当に返事しておく。一人暮らしの男子大学生なんてそんなもの。身の回りの事を終わらせてしまえば、あとはヘッドギアを被ってベッドに寝っ転がるだけだ。
 新しい世界に飛び込む時は、いつだってドキドキする。それは、ヘッドギアを装着し仮想空間へフルダイブするようになってからも変わらない。

 ――――それではいざ、IoUの世界へ!

 ログインしてみると、これから訪れることになるだろう街やダンジョン、フィールドが次々とシャボンのようなスクリーンに投影され、現れては消えていく。壮大なオーケストラが奏でるオープニングをバックミュージックにタイトルコール。そして映像を見ている間に生体スキャンを済ませたのだろう。データを元に作られた体型の白いローブを着た仮アバターが、カラフルなシャボンがいくつも浮かぶ空間を漂っていた。
 ふと気がつくと、目の前に白い布を巻き付けたような服を着た天使のような羽を持つ人物が立っている。ナビゲーターのようなものだろうか?

「ようこそエルシロスへ。君が新たな来訪者だね」

 男性とも女性ともとれる中性的な声。便宜上彼と呼ぶことにするが、彼に気づいたと同時に周りの電脳空間が神殿のような場所へと姿を変えた。きょろきょろとしている悠を見て、彼はくすくすと笑みを零しながら手招きしている。誘われるままそちらへ向かうと、湖のようなものの水面が揺らめいていた。

「フフ、そんなに警戒しないで! ほら、君の姿をみてごらん。このエルシロスでどう生きたいのか、どんな姿で過ごしたいのか。私に教えておくれ」

 ああ、つまりはキャラメイクか。悠は手を伸ばし、目の前の水面、もといウィンドウに映し出された項目をタッチして埋めていく。
 生体スキャンがあるとはいえ、そのままというのは味気ない。せめてもう少し変化が欲しい。
 髪色は黒ではなく紺色寄りに。勝ち色というのだったか、縁起が良くて結構他のゲームでもつい選んでしまう。癖っ毛はそのままふわふわとさせた。
 目の色は……海の都スタートと聞いているし、せっかくなので海の色みたいな青い目にしよう。その方がファンタジーっぽいもんな。
 身長や体格は生体スキャンのデータを流用できたのでその数値を使う。今回は魔法職だから、生身と変わらない動きができる旨みは逃げたり回避したりそっちに発揮されるかもしれないけれど。
 毎回その世界で自分が生きていたらどんな姿をしているかをイメージして作成するから、まずはヒューマン族を選択。
 そしてエルシロスで生まれ育った自分は名前もきっと悠ではなくて。どうしようかな。指を顎に当てて少し考える。悠、ゆう、ユー、YOU…………ユール。ユール! うん、それにしよう。名前を入力し、最初の職業を決めていたとおり白魔術士に設定してキャラメイク完了だ。
 職業を選んだからか、いつのまにか紺色のオーバーサイズの袖口が広いチュニックのような服と灰色のズボン、茶色のブーツに着替えていた。
 おお、いかにもファンタジーっぽい。くるくる回って自分の姿を見ているとくすくすと笑い声がした。

「決まったかい。……うん、ユール、いい名前だね。その目も深い海みたいで良い色だ」
「それはどうも。ところでここは? あんたは誰」
「フフフ! そう焦らないで。これから理想郷を追う中で、嫌でも知ることになるんだからさ」
「……どういうことだ?」

 その問いかけには答えず微笑んで、ゆったりと彼は歩みだす。慌ててユールが追いかけると目の前には豪華絢爛な白銀の扉。扉の回りに何か建物があるわけでもなく、ぽんと空間に扉だけが建っているような形だ。
 彼が手をかざすと、柔らかな光が徐々に開く扉から溢れてくる。扉の中からはどこからか激しい風も吹いていて、足に力を入れないと吸い込まれてしまいそうだ。彼は風の音に負けないよう声を張り上げる。

「これから君は広大なエルシロスに足を踏み入れる! そして理想郷を探すんだ。君にとってのね・・・・・・・!」
「お、俺にとって?」
「ああ! 新しい景色、新しい出会い、新しい能力! 数えきれないくらいに落ちている理想郷へのピースを集めるといい!」

 言葉を締めくくり、彼はにっこりと美しい顔で微笑んだ。束の間、ドン! と音がするくらい強く背中を押されて――ユールは、扉の中へ落っこちた。

「うわああぁあぁあぁぁぁあ!!!!!!??????」
「でもまずは新しさを楽しむことだよ、ユール! いってらっしゃい!」

 ひらひらと手を振る彼に、もし次会う機会があったら一言二言は言ってやろうと心に決めて。扉の中に広がる黒い空間へひゅうううううと音を立てて風をきりながら悠は下へ下へと落ちていく。
 

 ――――――――落ちていく。

 ――――――落ちていく。

 ――――落ちていく。

 ――落ちていく。

 そうして――――…………


「旅が始まるとでも思ったか?」

 ふと、黒いなにかがニヤリと笑いながら目の前を横切っていった。
 隣に視線を向けると、先程の彼の色違いのような男が並走するように落ちている。余裕綽々の顔をしているので、もしかしたらその背に生えた黒い悪魔のような羽で飛んでいるのかもしれない。ケラケラと笑っている黒い彼もまた、ナビゲーターなのだろうか。

「あんなイイ子ちゃんと一緒にすんな」

 苦々しい顔をして吐き捨てる男。しかしこのゲームに搭載されているらしいAIは凄いと感心する。こちらの考えを読んだというか、察してきた。
 ゲームの売りのひとつに、人間となんら変わらない会話をすることができるスーパーAIがあるとホームページに記載されていたのを思い出す。
 
「まあアイツは名乗らなかったみてぇだしオレ様も伏せておこうか。その方がおもしれぇからな!」

 先程の白い彼といいこの男といい、すごく人間に近い考え方をするなと思っていると、彼はくるりと宙返りして話を続けた。その大仰な動きはまるで舞台役者のようにも見える。

「なぁ、オマエは理想ってなんだと思う? あ、辞書的な意味は聞いてねぇぞ」
「たしか、人が心に思い描く目標とか……む、」
「まぁそうだよ、考えたので概ねあってる。――例えばなんだがな、動物って理想を思い描くと思うか?」

 動物だって夢を見るというし、人が知ることはできないとしても、こうなりたいとかは思うんじゃないだろうか? 未だ黒い空間を落下しているにも関わらず顎に手を当てて考え出したユールを見て、彼はゲラゲラと声をあげて笑った。

「アッハッハ! 真剣に考えてくれてありがとよ、来訪者! じゃあもう一個質問だ。AIは・・・理想を思い描くと思うか?」
「…………えっ?」

 それは、違うんじゃないだろうか。そもそも電子データでできたAIは心や感情なんかがない。だからこそ学習データに基づいて新しいものを産み出すことはあっても、それは理想とは違うものであって…………。
 そこまで考えて、疑問符が頭の中に浮かんだ。今この男は、ゲームの中の登場人物であるこいつは何て言った? この男は自分がAIであることを自覚している上でこの話をしているのか?
 それはこのゲームのストーリーとして組み込まれたものなのか、それとも?

「オレ様はオマエら来訪者の言う現実がどういうものなのかまでは知らねぇ。さすがにそこまでは教えられてねぇからな。でも、理想を思い描くっつー行動に関してはたくさん聞いた。で、考えたわけよ。オレ様の理想ってなんだろうなって」
「…………それで?」
「エルシロスを支配して魔物の楽園を作る、っていう設定されたものはあるんだよ。けどな、じゃあオレ様個人は? って話な」

 相変わらずオーバーな動きでころころと表情を変えているこの男は何が言いたいのだろう。さっきと変わらず落ちているままの自分に何をしろと言いたいのだろうか。
 これはシナリオ通りだから聞き流すだけでいいのか? そもそも異変があったから再起動しようと思ったとしても、ムービー中だからかシステムウィンドウが表示されない。レトロゲームみたいに電源ボタンを押してはいリセット、なんていかないんだよなぁフルダイブ型って。
 耳は男の話にかたむけながらもユールは頭の中でぐるぐる考えていた。考察やバックボーンを考える所の話ではない。しかしそんな焦りは気にした様子もなく、男の口はべらべらと止まらなかった。

「色々考えはしたんだよ。で、やってみてぇなとか思ったこともあるわけだ。だからやってみることにした」

 そう言い切り、楽しげにくるりと一回転して男は姿を消した。するとユールの落下速度が早まり、白く光る落下地点のようなものが近づいてくる。――ぶつかる! そう思った瞬間、光に包まれてユールの意識もだんだん飲み込まれていく。ゲームの中とはいえ、恐怖心は無くならない。衝撃に備えて目を強く閉じる。

「エルシロスにいるヤツ全員に付き合ってもらうぜ! その時までな!」

 最後に耳にしたのは、男の高らかな笑い声であった。
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