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カプなし、カプ未定、他キャラ

 先に弁明しとくと、俺は別にエスやないし、月光さんのことは嫌いやない。
 むしろ好きや。
 欠点なんてまるでないこの人を尊敬しとるし、ずっと一緒におりたいなぁ思うくらいには大好きでべったりな自覚もある。
「血、赤いんやね」
 俺と同じ赤い血を鼻から垂れ流しとる月光さんは、何も言わず大人しくしてる。
 殴り飛ばした挙句その上に乗っといてなんやけど、正直拍子抜けもええとこや。ちょっとしゃがんでもろうたところに一発、顔面に入れた拳はあっさりと巨体を吹き飛ばせてもうた。正直、月光さんを吹っ飛ばすんやったらもっと強う殴らなあかん思うとったのに。
 吹っ飛んだ衝撃で目が見えるか思うたけど、予想しとったより月光さんの目元は防御が鉄壁で前髪で隠れたまんま。引き結ばれた口元もいつも通りで、やっぱりいきなり殴られて内心どう思っとるかなんてまるで分らへん。
「月光さんも人の子やったんや」
 一言もしゃべらんと黙りこくっとる月光さんは、でも驚きすぎて声がでぇへんとかやなさそうやった。
「喧嘩とかしたことないし、人殴るん初めてなんで加減できんかったらすいません」
 月光さんの腹にまたがったまま、拳を振りかざす。自分でもびっくりするくらい力まんと振り下ろした拳が殴る直前、月光さんが歯を食いしばったんが分かった。
 当たり前やけど殴っても肉の柔らかい感じとかはぜんぜんない。
 骨とか歯とかの固い部分と、たまにあたる目や鼻のぎょっとするような柔らかさが手の骨越しに伝わって来て気色悪い。やっぱ人を殴って興奮するとか、気持ちよくなるとか言うやつのことはようわからん。
「月光さん、痛い? なぁ、痛いやんな?」
 プロレスはしたことあるけど、こうやって一方的に誰かを下敷きにして殴りつけるんは初めてやった。けど殴られるんはやっぱ痛いやろうし、殴るたびになんかもやっとする俺の手もきっと痛いんやろう。
 ほんまに、俺はサディストやないし、ましてや月光さんが嫌いなわけでもない。
 ただ、大人しく俺に殴られてちょっと痛そうな顔して真っ赤な血を流しとる月光さんは、こう、見とってゾワゾワした。
「なぁ、可愛がってる後輩に殴られてどんな気分? やっぱ他人に殴られるよりダブルスパートナーに殴られた方が痛いん? なぁ、なぁ! 教えてや月光さん!」
 顔面真っ赤にして、前髪も真っ赤にした月光さんは何も答えてくれんかった。

 翌日、朝一で病院行って帰ってきた月光さんは顔いっぱいにガーゼやら包帯やらつけて帰ってきた。
「……毛利」
 同じく包帯でぐるぐる巻きにされとる俺の手を取って、月光さんは真剣な声を出した。
 なんて言うてくるんやろ。
 これから何をしやるんやろ。
 やっぱ説教? どこがどんな怪我しとるか教えてくれたり? それか愛想尽きたから別れよとか?
 なぁなぁ、月光さん。どれ?
「手は痛むか」
 あららぁ、心配やったか。まぁ月光さんらしいな。
「痛いんとちゃいます?」
「……そうか」
「俺より月光さんが痛そうやん」
 月光さんを好きに殴り続けた俺の手は、確かに痛そうな見た目しとったけど。それでも多分、痛さとか不便さとか色々考慮すると痛いんは絶対に月光さんの方やわ。
「……そうだな、痛い」
 ほんまに痛そうな声でそんなこと言うもんやから、また殴りたくなってくる。そう言う声も顔も、なんでこんな時ばっか見せてきて殴ってる最中は……いや、見せとるな。うん。見とったわ。
「毛利」
「はい」
「痛いな」
 そう言った月光さんの顔にはほんまに痛いですって書いてあるみたいやった。
 ガーゼで覆われていない方の片目が、なんかようわからん感じにグラグラ揺れとってきれいや。
「そら最高やね、月光さん」
 ほんまに心の底からうれしくて思いっきり笑ったら、月光さんはギュッて抱きしめてくれた。
「いたいなぁ」
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