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カプなし、カプ未定、他キャラ

『越知のことを妄信している自分が好きなだけなんじゃないのか』
 そう言われて、「ちゃいます」って言い切れん自分が一番きつかった。「月光さん尊敬しすぎて表彰されるレベル」やって自分で言うたのに、それは違うように見えるとか言われて否定しきれんってどう考えてもヤバイ。やっぱどっかでそうかもしれんって思うたから、俺はあの時言葉に詰まってなんも言えんかったんやろか。
「月光さーん」
 ベッドに寝ころんだまま月光さんを呼んでみる。絶対に後輩が先輩を呼ぶときの態度とちゃうけど、なんか居住まい正して話すんは気が進まんかった。
 やっぱり返事はなくて、椅子に座って読書しとる月光さんが動いた気配はない。けど、返事がなくても、俺のほうに体向けてへんくても、ちゃんと耳はこっち向いて俺がなんか言うの待っとる。月光さんはそういう人やから。
「俺、月光さんのこと妄信しとる自分が好きなだけなんやろか」
 ちょっとだけ大きめに息を吸う音が聞こえただけで、月光さんはまたなんも答えてくれへんかった。まぁ聞いたところで結局どうなんかは俺にしかわからんわけやし、聞いてもしゃあないとこがあるんはわかっとるつもりや。でもま、“越知月光から見た毛利寿三郎”はどうなんか聞いてみたいやん。
 そもそも妄信ってなんやねん。
 月光さんはかっこええし、強いし、優しいし、しっかりしとるし、真面目やし、教えるんうまいし、賢くて勉強もできるし、難しい本もようさん読んどるみたいやし、つまらん授業もしっかり聞いとるし、戦略とかペース配分とか考えるんもうまいし、小食やのにすごい動き回るし、めっちゃ長い距離歩けるし。
 上げだしたらきりないくらい月光さんは長所の塊で、短所なんか一個もないんちゃうかってくらい。
 俺からしたら月光さんはパーフェクトで完璧な先輩やった。
 これは絶対に譲れへん。
 やから俺は、月光さんを妄信しとるわけやない。
「……さして興味はないが」
「やっぱそう」
「身が引き締まる思いだ」
「……そう、ですか」
「あぁ」
 感情らしい物が何もない声は相変わらずで、逆になんか緊張する。心臓がうるさい。
 思わず手元のスマホで「身が引き締まる思い 意味」て調べてもうた。
 気持ちがしっかりして緊張する……。へぇ。
 月光さんが言うんやから嘘でも冗談でも無いんやろうけど、ちょっと意外やった。それってつまり、しっかりせななって思っとるってことやろ? 俺がきゃいきゃい言うてんのを聞いて、そういう風に考えとるんや……。へぇー、そうなんや。……そうなんや。
「月光さんって俺の前でかっこつけたいって思ってたりするんです?」
「……」
 思わず体を起こして月光さんを見下ろしたら、珍しく前髪の隙間から覗いた目がじとっと睨みつけてくる。あえて聞くことやなかったし、さすがの月光さんでも呆れとるみたいやけど。せやけど、睨んだきりまた読書に戻ってもうた月光さんの背中を見とったら笑いがこみあげてきて止まらん。
 そっか、そうなんや。月光さん、今までずっと俺の前でかっこつけとったんや。
 笑いをこらえようとしても止まらんくて、多分月光さんにはバレとる。しゃあない、後でちゃんと謝って許してもらお。月光さん甘いから、俺がちゃんと謝ったら許してくれるやろ。しばらく色々厳しなるやろうけど全然かまへんわ。
 完璧でパーフェクトな先輩を好きな自分が好き。
 これについては違うって今やったら断言できる。
 やって、謙遜でもなんでもかっこつけてますって言われたのに、俺ぜんぜん幻滅してへんしむしろもっと尊敬したし。
「月光さん、ほんまかっこええですわ」
「……少し黙れ」
「はーい」
 ため息が聞こえてきて、俺はなんか妙にくすぐったい気持ちになってくる。
 自分でもわかるくらい満面の笑みを浮かべとった。
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