立海大附属中学校調理部副部長の私。丸井に負けない最高のケーキを作ることが今の目標!部長の代わりに出席した生徒会会議で書記の柳蓮二くんを見てからドキドキする…
第1冊目
お前は確かA組の…
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それから1時間、私はずっと柳くんを見続けた。途中、何かを一生懸命ノートに書き留めたり、分厚いノートをぱらぱらとめくりながら丸井と桑原にアドバイスしていたり、何かと忙しそうだ。男テニはマネージャーがいないからきっと柳くんがその役割を担っているのだろう。さすが柳くん。かっこいい。
「待たせてしまってすまなかった。退屈だっただろう」
「ううん、私、テニス観るの好きみたい。結構面白かったよ」
柳くんはそうか、と言いながら私の隣に座る。二人の距離は30センチに満たない。触れようと思えば触れられてしまう距離だ。
「島野さんは確か、この間の生徒会会議で部長代理として出席していたな」
「え、柳くんそんなことまで覚えてたの!?」
「概ねそういう事だろうと思ってな。ところでこれはもう開けてもいいのか?」
柳くんはすでに紙袋から出した缶に手をかけている。意外と甘いもの好きなのだろうか。
「うん、食べて」
缶の蓋に巻かれたテープを丁寧に剥がし、保冷剤と緩衝材を滑らかな手つきでどかしていく。琥珀色に光るゼリーと丸く少し大きめに絞ったマカロンをじっと見つめる。アドバイスしてくれ、とは言ったけれど手に取って色々な角度から見られると少し恥ずかしい。大きめに絞ったはずのマカロンは柳くんが持つと少し小さく見えた。
「ふむ、見た目はとても繊細で綺麗だ。こちらから言うことは何も無い。丸井と互角、もしくはそれ以上と言えるだろう」
柳くんが褒めてくれた。一気に顔が熱くなる。喜ぶのも束の間、柳くんがマカロンを一口齧る。持っていない方の手を受け皿にして食べている様子はとても上品で、ついつい見惚れてしまう。柳くんのかっこよくないところが見当たらない。本当に困った。柳くんはゆっくりと味わって食べ進めている。真剣に考えてくれているようだ。
「…島野さん」
「は、はい!」
急に呼ばれて、咄嗟に背筋が伸びる。今のは絶対なぜ敬語、と思われた。恥ずかしい。
「まずこのレモンのマカロンだが、技術は俺と同じ歳とは思えないほど高いと言える。基本に実に忠実なものだが、あの丸井に勝つにはより創造性が必要とされるだろう。例えば、生地に何かを混ぜ込んだり、挟んでいるレモンクリームを何か別のものにしたり」
「…すごい」
自分から頼んだとはいえ、あまりに的確なアドバイスに思わずため息をつく。
「次はこっちか」
そう言うと柳くんは今度はゼリーを手に取って、スプーンですくい口に運ぶ。柳くんは割と一口が大きいタイプのようだ。だけどそれでも所作一つ一つがとても美しい。柳くんの最高なところしか見つからない。
「これもだな。技術は申し分ない。だが丸井のようなアレンジが加わることでより味わい深いものになるはずだ」
その後も柳くんは私と一緒に色々なアイデアを考えてくれて、気づいたら1時間以上経っていた。もう空は暗くなり始めている。
「もうこんな時間だ。ごめんね柳くん、長い時間取らせちゃって」
「いや、気にするな」
「今度何かお礼させてよ」
そしてあわよくば休日デートの予定にこじつけたいところだ。
「お礼か…」
柳くんが何やら考えている。夕日に髪が照らされて、女子の憧れの天使の輪が出来ている。私ですら毎日シャンプーとリンスにトリートメントまでつけてやっとできるかできないかなのに。
「島野さん、俺と手を組まないか」
「は?」
一体どんな要求をされるのかとドキドキしていたのに、予想外の言葉に思わず聞き返す。
「俺が最近開発している栄養ドリンクに、お前の技術を借りたい。その代わり、お前の作った菓子の改良にも手を貸そう」
「栄養ドリンクって、私栄養学は未履修なんだけど…」
「栄養学については問題無い。大体のことは頭に入っているからな。しかし何故かどうしても味が酷い」
今さらっとすごいこと言った気がする。だけど柳くんはマネージャー気質だと思っていたけれどそんなことまでしていたなんて。少し感動した。
「そこでだ。今週の日曜、調理室を押さえてある。2人になってしまうが少し考えてみてくれないか」
「乗った」
私は柳くんと硬く握手を交わした。柳くんの手は細いように見えるけど案外骨ががっしりしていて、関節の所や静脈が少し浮き出ている。
日曜日、柳くんと2人きり。明日から短期集中でダイエットしなくては。私は柳くんにときめきながらも明日からのお弁当のおかずを考え始めた。
こうして、私と柳くんの不思議な関係が出来上がったのだ。
「待たせてしまってすまなかった。退屈だっただろう」
「ううん、私、テニス観るの好きみたい。結構面白かったよ」
柳くんはそうか、と言いながら私の隣に座る。二人の距離は30センチに満たない。触れようと思えば触れられてしまう距離だ。
「島野さんは確か、この間の生徒会会議で部長代理として出席していたな」
「え、柳くんそんなことまで覚えてたの!?」
「概ねそういう事だろうと思ってな。ところでこれはもう開けてもいいのか?」
柳くんはすでに紙袋から出した缶に手をかけている。意外と甘いもの好きなのだろうか。
「うん、食べて」
缶の蓋に巻かれたテープを丁寧に剥がし、保冷剤と緩衝材を滑らかな手つきでどかしていく。琥珀色に光るゼリーと丸く少し大きめに絞ったマカロンをじっと見つめる。アドバイスしてくれ、とは言ったけれど手に取って色々な角度から見られると少し恥ずかしい。大きめに絞ったはずのマカロンは柳くんが持つと少し小さく見えた。
「ふむ、見た目はとても繊細で綺麗だ。こちらから言うことは何も無い。丸井と互角、もしくはそれ以上と言えるだろう」
柳くんが褒めてくれた。一気に顔が熱くなる。喜ぶのも束の間、柳くんがマカロンを一口齧る。持っていない方の手を受け皿にして食べている様子はとても上品で、ついつい見惚れてしまう。柳くんのかっこよくないところが見当たらない。本当に困った。柳くんはゆっくりと味わって食べ進めている。真剣に考えてくれているようだ。
「…島野さん」
「は、はい!」
急に呼ばれて、咄嗟に背筋が伸びる。今のは絶対なぜ敬語、と思われた。恥ずかしい。
「まずこのレモンのマカロンだが、技術は俺と同じ歳とは思えないほど高いと言える。基本に実に忠実なものだが、あの丸井に勝つにはより創造性が必要とされるだろう。例えば、生地に何かを混ぜ込んだり、挟んでいるレモンクリームを何か別のものにしたり」
「…すごい」
自分から頼んだとはいえ、あまりに的確なアドバイスに思わずため息をつく。
「次はこっちか」
そう言うと柳くんは今度はゼリーを手に取って、スプーンですくい口に運ぶ。柳くんは割と一口が大きいタイプのようだ。だけどそれでも所作一つ一つがとても美しい。柳くんの最高なところしか見つからない。
「これもだな。技術は申し分ない。だが丸井のようなアレンジが加わることでより味わい深いものになるはずだ」
その後も柳くんは私と一緒に色々なアイデアを考えてくれて、気づいたら1時間以上経っていた。もう空は暗くなり始めている。
「もうこんな時間だ。ごめんね柳くん、長い時間取らせちゃって」
「いや、気にするな」
「今度何かお礼させてよ」
そしてあわよくば休日デートの予定にこじつけたいところだ。
「お礼か…」
柳くんが何やら考えている。夕日に髪が照らされて、女子の憧れの天使の輪が出来ている。私ですら毎日シャンプーとリンスにトリートメントまでつけてやっとできるかできないかなのに。
「島野さん、俺と手を組まないか」
「は?」
一体どんな要求をされるのかとドキドキしていたのに、予想外の言葉に思わず聞き返す。
「俺が最近開発している栄養ドリンクに、お前の技術を借りたい。その代わり、お前の作った菓子の改良にも手を貸そう」
「栄養ドリンクって、私栄養学は未履修なんだけど…」
「栄養学については問題無い。大体のことは頭に入っているからな。しかし何故かどうしても味が酷い」
今さらっとすごいこと言った気がする。だけど柳くんはマネージャー気質だと思っていたけれどそんなことまでしていたなんて。少し感動した。
「そこでだ。今週の日曜、調理室を押さえてある。2人になってしまうが少し考えてみてくれないか」
「乗った」
私は柳くんと硬く握手を交わした。柳くんの手は細いように見えるけど案外骨ががっしりしていて、関節の所や静脈が少し浮き出ている。
日曜日、柳くんと2人きり。明日から短期集中でダイエットしなくては。私は柳くんにときめきながらも明日からのお弁当のおかずを考え始めた。
こうして、私と柳くんの不思議な関係が出来上がったのだ。