1話
「お兄さん、今からお仕事?」
「いや、家に帰る途中」
「この辺りに住んでるんですか?」
「まあ、一応」
微妙な返答で濁されたのは、私に対する警戒心のせいか、それともプライバシーを守るためか。個人情報をペラペラ喋らないところは好感が持てるけど、つっけんどんな態度を見るに、私は完全に不審者扱いされているみたい。
無理もない。見ず知らずの女にいきなりグーパンされた挙げ句、プライベートな事を根掘り葉掘り聞かされようとしているんだ、機嫌が良いはずがない。
でもここで身を引いたら、二度と彼には会えないかもしれない。そう思うと引き下がるわけにはいかなかった。なんとしても心を開いてもらわないと、それが無理なら、せめて連絡先だけでも知りたい……!
意を決して、彼の左手に握られているハンカチの方を見る。
「ほっぺ、痛そうですね」
そう言うと、氷の粒みたいな視線がちらりと私に向く。冷たい吊り目が更に吊り上がり、私への不快感が滲み出ていた。触れられたくない事情があるんだろうな、と思う。
「女の人に振られたの?」
核心を突けば彼の纏う空気が変わる。
ひやりと肌を刺す冷たさが私を襲った。
「……何だよ。人のこと検索するのがアンタの趣味か」
お。地が出始めた。
「そういうわけじゃないけど、お兄さんに関しては別かな」
「……は?」
あからさまに怪訝な声を発した彼は、心底嫌そうに顔をしかめる。
でもこれで怯む私じゃない。構わず続ける。
「私でよかったら慰められるけど、どうかな」
「いや、家に帰る途中」
「この辺りに住んでるんですか?」
「まあ、一応」
微妙な返答で濁されたのは、私に対する警戒心のせいか、それともプライバシーを守るためか。個人情報をペラペラ喋らないところは好感が持てるけど、つっけんどんな態度を見るに、私は完全に不審者扱いされているみたい。
無理もない。見ず知らずの女にいきなりグーパンされた挙げ句、プライベートな事を根掘り葉掘り聞かされようとしているんだ、機嫌が良いはずがない。
でもここで身を引いたら、二度と彼には会えないかもしれない。そう思うと引き下がるわけにはいかなかった。なんとしても心を開いてもらわないと、それが無理なら、せめて連絡先だけでも知りたい……!
意を決して、彼の左手に握られているハンカチの方を見る。
「ほっぺ、痛そうですね」
そう言うと、氷の粒みたいな視線がちらりと私に向く。冷たい吊り目が更に吊り上がり、私への不快感が滲み出ていた。触れられたくない事情があるんだろうな、と思う。
「女の人に振られたの?」
核心を突けば彼の纏う空気が変わる。
ひやりと肌を刺す冷たさが私を襲った。
「……何だよ。人のこと検索するのがアンタの趣味か」
お。地が出始めた。
「そういうわけじゃないけど、お兄さんに関しては別かな」
「……は?」
あからさまに怪訝な声を発した彼は、心底嫌そうに顔をしかめる。
でもこれで怯む私じゃない。構わず続ける。
「私でよかったら慰められるけど、どうかな」