5話 こんな大人になれたらいいのに。

「……いいんですか?」
「ああ……悪いな。大人げないとこ見せた上に、帰り道が遠回りになりそうで」
「それはいいんですけど……元カノだよね?」
「ああ。まさか一緒のアパートだったとはな……もしかして顔も知ってた?」

 一拍置いて、私は首を横に振る。同じアパートの住人だとわかっても、彼女の顔は私の記憶にはない。すれ違ったことはあるかもしれないけど、会話を交わしたことはないはず。

「俺、何度かアパートに行ってるから、もしかしたら奈々とすれ違ってるかもな」
「……そう、だね」

 実はすれ違ってるんです、と答えられなかった。彼女の姿が脳裏に焼き付いて離れない。しなやかなボディライン、見た目のきらびやかに加え、強烈な個性とフェロモンを放つ大人の女性。完成度が高すぎる。
 態度も堂々として凛々しくて、卯月さんの隣に立っても遜色ないほどの圧倒的なオーラを放っていた。
 卯月さんの好みのラインが彼女なら、私なんかではまだまだ遠く及ばない。努力してきたつもりだったけど、努力だけでは補えない何かが彼女からは滲み出ていた。それは積み重ねてきた経験値とか、培ってきた知識と呼ばれる類のものかもしれない。だとしたら、子供と揶揄されるのも仕方ない。その通りなのだから。
 卯月さんにとっても、彼の元カノにとっても、私は子供としか認識されない現実に泣きたくなる。私と卯月さんの間には、絶対に越えられない溝がある。社会人と大学生――その見えない隔たりが。
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