5話

 ぽん、と頭を撫でられた。優しい手つきに罪悪感が募る。卯月さんに限らず、他人に対して自分のことはあまり積極的に話せない。私も、私の家庭も、きっと普通じゃないから。そういう思い込みが、誰に対しても壁を作っているように見えちゃうのかな。
 何となく気まずい沈黙が落ちる。なにか話しかけた方がいいのかな、焦燥感に駆られて口を開こうとした時。

「……恭一?」

 背後から掛けられた鋭い声。高いヒールの音がアスファルトに響いて止まる。……恭一? 卯月さんのこと? 特別感を匂わす呼び名に嫌な予感が胸をよぎる。
 振り返れば、街灯の下に一人の女性が立っていた。ハイブランドのドレス姿に、華やかな巻き髪と濃いめのアイメイクが特徴的な人。豪華に着飾った綺麗な女性が、険しい顔つきで卯月さんを見つめている。

「……優樹菜」

 低い声が女性の名を紡いだ。卯月さんが一歩前に出て、私を庇う様に背中に隠そうとする。彼の肩越しから2人の様子を窺えば、彼らは互いに苦虫を噛み潰したような顔で睨み合っていた。
 もしかして卯月さんの元カノ……?

「奇遇ね、こんな所で会うなんて」
「そうですね。目障りだから早く立ち去ってください」
「は? ざけんな。てめーが先に失せろ」
「嫌だね。そっちが先に帰れ」

 なぜか唐突に低レベルな口論が始まった。卯月さんは笑顔でお話してるけど、心なしか背景にダイヤモンドダストが吹き荒れているような気がする。
 私はおどおどしながら2人のやり取りを見守るしかなくて、一触即発な雰囲気の中、女の人の視線がふと、私の姿を捉えた。
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