5話

 レジ処理で退勤してからロッカーへ向かい、急いで私服に着替えて店舗裏へ向かう。従業員扉を開ければ、建物の壁を背にしてスマホを眺めている卯月さんがいた。私の気配に気付いて顔を上げる。

「お疲れさん」
「卯月さんもお疲れ様です!」
「帰るか。どっか寄りたいとこある?」
「ううん。大丈夫」

 スポットライトが照らす闇夜を二人並んで歩き出す。熱を含んだ夜風が肌をなぞり、熱帯夜になりそうだな、と卯月さんが呟いた。私の歩調に合わせてくれる彼の気遣いが嬉しい。

「卯月さんって車持ってるのに、どうして徒歩で通勤してるの?」

 前から疑問に思っていたことを尋ねてみる。

「運動不足解消のため」
「そうなの? でも、マンションからそこそこ距離あるし、歩くのも大変そうだね」
「慣れてしまえば大したことねぇよ。それに、車だとすぐに別れちまうだろ」
「え?」
「徒歩の方が、奈々と一緒にいられる時間が長いからな」

 さらりと放たれた言葉に鼓動が跳ねた。冗談なのか本気なのか測りかねる軽いトーン。卯月さんは最近、こういう危うい発言をすることがある。
 私をからかって楽しんでいる節があるけれど、その言葉が事実なのかはわからない。本気でそう思ってくれてるなら嬉しい……けど。

「……奈々って、あまり自分のことを話さないよな」

 何気なく投げられた言葉にギクリと体が強張った。指摘されたくなかった部分を鋭く抉られた気がして。

「……え……そうかな」
「奈々のこと、俺はまだよく知らないんだよな。家族とか、趣味とか、住んでる場所も教えてくれないだろ。なんか壁あるよなぁ、って」
「あ、そっか……ごめんなさい。隠してるわけじゃないんだけど……」
「まあ、話したくないこともあるだろうけど。俺に遠慮とかすんなよ」
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