1話
おそらく彼は、前方を歩いていた私を後ろから追い抜こうとして、でも運悪く、私が伸ばした腕が彼の頬をペチンと叩いてしまった……みたい。
会いたいとは思っていたけど、まさかこんな形で再会するなんて。痛そうに歪む眉間に冷や汗がどっと出た。慌てて手を引っ込める。
「ご、ごめんなさいっ」
反射的に体を折り曲げて謝罪する。
彼は眉根を寄せたまま呟いた。
「……いえ、大丈夫です」
思いのほか、声に怒りがこもってなくて安堵する。恐る恐る顔を上げて、彼の顔を見た時に異変に気付いた。あれ? と思いながら彼の頬を凝視していると。
「何か?」
「あ、いえ……」
言い淀んでしまったのには訳がある。私が彼にパンチングしてしまったのは右の頬だ。でも彼のほっぺが赤く腫れ上がっているのは左頬。明らかに、誰かに平手打ちされたような跡がある。
頬にビンタされた跡を残す男が、こんな早朝に通りを歩いている意味。その事情は探らない方がいいんだろうなと思いつつも、恋人にやられたのかなあ、なんて邪な想像をする自分がいる。
改めて見ると、彼はやっぱり惚れ惚れするほど魅力的だった。綺麗に切り揃えられた黒髪は艶があって清潔感があり、スーツを隙なく着こなす姿はモデルみたいにスタイリッシュ。端正な顔立ちを台無しにしかねない、左右非対称の頬の赤みは見てて痛々しいものの、そんなマイナスポイントさえ、美形というプラス因子の前では霞んでしまう。
心臓が鼓動を速めていく。ずっと会いたい、話したい、あわよくば抱かれたいと思っていた彼が目の前にいる。なんであの日、勇気を出して声を掛けなかったんだと何度も後悔した。ここで会えたのは神様がくれたプレゼントに違いない。きっとそうだ!
「あの……今、お時間大丈夫ですか?」
会いたいとは思っていたけど、まさかこんな形で再会するなんて。痛そうに歪む眉間に冷や汗がどっと出た。慌てて手を引っ込める。
「ご、ごめんなさいっ」
反射的に体を折り曲げて謝罪する。
彼は眉根を寄せたまま呟いた。
「……いえ、大丈夫です」
思いのほか、声に怒りがこもってなくて安堵する。恐る恐る顔を上げて、彼の顔を見た時に異変に気付いた。あれ? と思いながら彼の頬を凝視していると。
「何か?」
「あ、いえ……」
言い淀んでしまったのには訳がある。私が彼にパンチングしてしまったのは右の頬だ。でも彼のほっぺが赤く腫れ上がっているのは左頬。明らかに、誰かに平手打ちされたような跡がある。
頬にビンタされた跡を残す男が、こんな早朝に通りを歩いている意味。その事情は探らない方がいいんだろうなと思いつつも、恋人にやられたのかなあ、なんて邪な想像をする自分がいる。
改めて見ると、彼はやっぱり惚れ惚れするほど魅力的だった。綺麗に切り揃えられた黒髪は艶があって清潔感があり、スーツを隙なく着こなす姿はモデルみたいにスタイリッシュ。端正な顔立ちを台無しにしかねない、左右非対称の頬の赤みは見てて痛々しいものの、そんなマイナスポイントさえ、美形というプラス因子の前では霞んでしまう。
心臓が鼓動を速めていく。ずっと会いたい、話したい、あわよくば抱かれたいと思っていた彼が目の前にいる。なんであの日、勇気を出して声を掛けなかったんだと何度も後悔した。ここで会えたのは神様がくれたプレゼントに違いない。きっとそうだ!
「あの……今、お時間大丈夫ですか?」