5話

 21時過ぎ。来客を知らせる入店チャイムがコンビニ店内に鳴り響く。レジ作業を止めて顔を上げれば、彼が私の姿を探していた。

「あ、卯月さんだ。いらっしゃいませ!」

 カウンター越しに挨拶すれば、私に気付いた卯月さんの表情が和らぐ。Yシャツにスラックス姿の卯月さんは、いつもより少し疲れているように見える。

「今日も遅くまで働いてるんだな」
「うん。卯月さんは今帰り?」
「ああ。弁当買いに来た。奈々のお勧めある?」

 お祭りの日以来、下の名で呼ばれるようになった。まだ耳に慣れなくて、少しばかり新鮮な響きに聞こえる。

「幕の内弁当と牛丼がオススメです! 厨房で作った牛丼が美味しくて評判なの」
「じゃあそれにする。コーヒーも買うわ」

 選んだお弁当を2つ持って、卯月さんはカウンターに商品を置く。それぞれ手早くレジを打ち、購入物を袋に詰める。
 最近、卯月さんはよくこのコンビニへ立ち寄ってくれる。私のバイト先が彼の職場に近いらしい。自炊が面倒な時、卯月さんは仕事帰りにお弁当をよく買いに来る。お客さんとしての彼の立ち振る舞いはいつもスマートだ。

「あ、奈々。悪いんだけど、弁当はそれぞれ分けて袋に入れてもらえるか?」
「うん、いいよ」
「で、こっちは奈々の分」
「え?」

 差し出した袋のひとつを、逆に受け取る形になってしまった。戸惑う私に卯月さんは当然のように言う。

「そろそろ上がりだろ? もう遅いから途中まで送る。店の裏で待ってるから」
「えっ、でも悪いよ。私なら大丈夫だから、卯月さんは早く帰って休んで?」
「俺は平気だって」
「じゃあ、せめてお弁当代くらい」
「いいって。じゃあ後でな」

 有無を言わさぬ態度で押し切られる。素直にありがとうと伝えれば、卯月さんも満足そうに頷いた。
2/5ページ
スキ