4話

 別に隠す理由はない。伝えても何も問題はない。でも教えるのは抵抗があった。今更だし、卯月さんを困らせたくないし、何よりアパートの場所を明かして、彼と元カノが鉢合わせする事態を招くのも嫌だった。
 そもそも卯月さんがあの場にいた理由が、恋人の部屋を訪れていたから―――というのは、私の勝手な想像だ。本当のことは知らない。会っていた人物が恋人なのかもわからない。その答えを知るのも―――……なんとなく嫌だった。

・・・

「……これで大丈夫かなあ」

 鏡に映る自分の姿を、何度も入念にチェックする。着付けの動画を見ながら着用した浴衣は、淡い桃色の牡丹があしらわれている。帯のリボンは可愛らしい蝶々結びで、髪は少し高い位置で結っている。揺れる髪留めで華やかさを演出し、頬紅と口紅はあえて控えめに止めた。浴衣の雅やかさが損なわれない為の配慮だ。

「くまちゃん、いい子にして待っててね」

 優しく撫でると、ふわふわの尻尾をぺたりと床に下ろしてションボリしてる。寂しそうな表情に胸が痛むけど、さすがに人出の多い場所には連れていけない。今日はお留守番だ。

 玄関に向かい、新調した下駄に足を通してみる。鼻緒は帯の色味と同じもの。最後に全身鏡の前で浴衣姿をチェックして、レースやフリルを施した巾着バッグを手に取った。
 振り返れば、くまちゃんはベッドの上で眠り始めている。その姿を見届けてからアパートの扉を開けた。夕刻とはいえ気温はまだ高く、生温い風が頬に触れる。湿気が体にまとわりつくような感覚を覚えながら、公園までの短い距離を慎重に歩いた。
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