1話

・・・

 あれから数週間経ったけど、私の日常は何も変わっていなかった。深夜から早朝にかけて、日々代わる代わるセフレくん達と会っては遊び歩く爛れた生活。けれど、朝帰りの度にどうしてもあの階段をチェックしてしまう。彼がまた降りてくるんじゃないか、そんな淡い期待を抱きながら。
 けれど彼の姿は影も形もなく、毎回肩を落として帰路につくばかり。

 また今日もいないのかなあ……。

 そんな諦めムードが漂っていた、ある金曜日の明け方のこと。その日は珍しくセフレ君と夜更かししてしまい、帰りも遅くなってしまった。空はもう明るくなり始めていて、電柱からは雀のさえずりが聞こえてくる。

「……ふぁ~あ」

 欠伸が出ると同時に大きく伸びをする。腕を天に向けてぐっと伸ばすと、腰の辺りに鈍い痛みが走った。昨日の子、いつもより長丁場だったもんな……。おかげでちょっと疲れてるけど、それでも愉しかったし充実感はある。でもやっぱり朝になると、例によって虚しさが忍び寄ってくる。

 探してみようかな、彼のこと。

 諦めかけたつもりだったけど、やっぱり諦めきれない。アパートの住人の中に、彼の事を知ってる人がいるかもしれない。ゴミ出しのタイミングで鉢合わせた人に、それとなく聞き出してみようかな。
 なんてぼんやり考えながら、もう片方の腕もぐーっと伸ばして骨を鳴らす。

 ―――ぺち。

 背後から鈍い衝突音がした。同時に「いてっ」と叫ぶ声。手の甲には柔らかい何かが触れる感覚。嫌な予感がして振り返ると、そこには意外な光景が広がっていた。

「――えっ……えッ!?」

 衝撃で声が裏返る。背後に人が立っていた。全然気づかなかった。でもそれだけじゃない、後ろにいたのは例のスーツ姿の彼だった。
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