4話

「まあな。上半期の締めの時期だし、やる事は結構あるから。広告キャンペーンの仕込みもあるし」
「そっか……」

 何気ない一言のつもりだったけど、返された返答に胸の奥がぎゅっと縮んだ。金曜の夜から週末まで、一緒に過ごすことが当たり前のようになってきた私達。でも卯月さんは相変わらず多忙みたいで、一緒にご飯を食べた後、スマホで仕事のやり取りをしている姿をたまに見かける。抱えているクライアントがたくさんいるんだろうな。
 そんな姿を目にする度に不安になる。私の存在が重荷になっていないか、迷惑な存在になっていないか。食卓の向こう側で、天津飯を口に運ぶ卯月さんの様子は至って普通に見えるけれど、時折、とても無理させてるんじゃないかと考えてしまう。

 胸に湧く不安が寂しさに変わる。まるで親に構われたくて泣きそうになってる子供みたい。

「……寂しい?」
「えっ」

 出し抜けに言われてレンゲを落としそうになった。どうして胸の内がバレたんだろう。動揺して視線を彷徨わせる私を、卯月さんは口元を緩めて眺めている。何もかも見透かしているような眼差し。いたたまれない気持ちになる。

「……あ、えっと……。ちょっとだけ寂しい……かな?」
「ふうん。ちょっとだけ?」
「ちょっと、だけ」
「ふーん」

 くつくつと喉を鳴らして笑われた。『ちょっとだけ』を強調するあたり、本当はちょっとどころじゃない事もバレてるみたいで恥ずかしい。こんな風にからかわれるのはいつものことなのに、今日はやけに心臓が煩い。でも、嫌な感覚ではなかった。
 自分の中で生まれた不思議な感覚に戸惑う。深く考えたくなくて、迷いを振り払うように頭を振った。レンゲでご飯を掬い、口に運ぶ。とろとろの餡とふわふわの卵が口の中に広がって、心に芽生えた小さな不安を幸福な味覚でかき消した。
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