4話

 卯月さんがくまちゃんを指さす。ひょこっと覗けば、くまちゃんの額に再び文字が刻まれていた。

『熊』

「卯月さんんんんんっ!!!」
「ぶはっ」

 卯月さんがまた吹き出して、私はひとりでキャンキャン吠える。くまちゃんは私が何に怒っているのかわかっていないようで、尻尾をパタパタさせながら笑い転げる卯月さんにじゃれていた。

・・・

 あれからさらに一ヶ月が経過した。季節は6月半ばに差し掛かり、蒸し暑い日々がやってくる。
 東京の梅雨入りも発表され、空模様はどんよりと曇りがち。今にも雨が降り出しそうな鈍色の雲が、いつも街の上空を覆っている。

 卯月さんと定期的に会うようになってから、私の毎日は劇的に変化した。まずは食生活。次に生活リズムだろうか。今まで夜遊び三昧だった私が、きちんと夕方には帰宅し、夜には翌日の準備を済ませ、卯月さんから教わったレシピを参考に料理の練習をする。そんな健全な日々を送るようになった。

 朝起きて最初に確認するのは、卯月さんからの新着メッセージ。私が眠る前にスタンプを送れば、大抵朝には彼からのスタンプ返しが来る。メッセージ付きの連絡は昼頃か夕方に来たりして、「今日は残業確定だわ。悪い」という短い報告だったり、「駅前のパン屋で朝霧の好きそうなやつ売ってた」と画像付きで送られてきたりする。

 何よりも嬉しいのが、私が一方的に送ったメッセージに対しても必ず返事が返ってくること。これが私を安心させてくれる。セフレくん達とは違い、既読無視したり、返信が数日を跨ぐなんてことはない。どんなに忙しくても、時間を置いてでも必ずリアクションをしてくれる。
4/19ページ
スキ