3話

・・・

 彼の部屋は相変わらず整然としていて清潔感がある。玄関に足を踏み入れた瞬間、美味しそうな匂いが鼻腔を掠めた。漂ってくる芳ばしい香りに食欲をそそられて、お腹が再びきゅうと鳴く。
 着いて早々、室内を探検しようとするくまちゃんを抱きかかえ、大人しくさせてから卯月さんの後ろをついていく。

「お腹すいちゃった」
「朝ちゃんと食べたのか?」
「食べたよ。トマトとキュウリ」
「それだけ?」
「ヨーグルトも」
「足りんの?」
「朝はあまり食欲がなくて」

 と言ったところで軽くデコピンされた。反射的に目を閉じてしまう。

「朝霧、ちゃんと肉も食ってるか?」

 う、と言葉が詰まる。実は肉類はあまり口にしない。嫌いじゃないけど意図的に避けている。動物性タンパク質は内蔵に負担がかかるし、腸の消化時間も長い。デトックス効果が望めないから。
 脂成分が多い肉は、どうしても体重管理の維持が難しくなる。だから基本的に野菜と魚中心の食生活になってしまう。そう告げたら卯月さんは険しい表情を浮かべた。

「駄目だろそれ。バランスが悪い」
「……バランス」
「道理でな。前に手首を掴んだ時、妙に冷えてたから変に思ったんだよ。貧血じゃないのか?」

 そうなのかな。貧血なんて言われても倒れたことがないからわからない。だけど確かに生理中、酷い偏頭痛や倦怠感に悩まされることはある。月のものが来た日は一日中だるくて仕方ない。でもそれは女の子特有の現象だし、そういう時は大学も休んで大人しくしてるから気にしてなかった。

「肉も食べないと、タンパク質もミネラルも脂質も全然摂れないだろ。栄養が偏る」

 卯月さんが炊飯器の蓋を開けた。途端、もわ……と白い湯気がたちこめる。同時に濃厚な香りがキッチン内に充満した。
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