3話

「おい犬」
「わう?」
「お前だって嫌だよな、変な名前つけられて」
「わう」
「ほら見ろ。本人も嫌だって言ってるじゃねえか」
「違いますよ。今のは『そんなことないですボクこの名前気に入ってます』って言ったんですよ。ね、くまちゃん?」
「わう」

 私と卯月さんの問いかけに、律儀に返事をするくまちゃん。絶対に私の主張が正しいと思うのに、卯月さんは全然納得してくれない。相当この名前がお気に召さないらしい。

「飼い主だからって遠慮することないぞ。『勝手に変な名前つけてんじゃねえクソビッチ』って言ってやれ」
「くまちゃん、言ってあげて。『ボクこの名前気に入ってます』ってこの人に言ってあげて」
「わう(メシくれ)」
「ほら、本人も気に入ってますって言ってる」
「ちげーよ。今のは変な名前つけんなって言ったんだって」

 全く噛み合わない私達の会話はしばらく続き、互いに主張を曲げないまま時間は過ぎていく。繰り返される口論に飽きたのか、くまちゃんは頭上でひらひらと舞う蝶々を目で追い始めた。
 興奮気味に鳴いて飛び跳ねる。楽しそうにくまちゃんが走り出すから、私もつい笑顔になってしまう。

「元気だな」
「まだ子犬ですからね」
「躾けはされてるみたいだし、賢い犬種なんだろうな」
「そうなんです。すごく従順で賢くて。お留守番もできるし粗相もしないし、私がいない間もちゃんとお利口にしてるんですよ」

 くまちゃんへの賛辞に思わず胸を張ってしまう。私だけでなくくまちゃんのことまで褒めてもらえるのはとても嬉しい。私の大切な家族だから。

「ふうん。なのに誰かさんは夜遊びばっかして帰ってこねーし、寂しいだろうな~犬」
「うぐっ」
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