3話

 向こうも私の姿に気付いたらしい。白いシャツに薄手のカーディガンを羽織り、濃紺のジーンズ姿の卯月さんがゆったりとした足取りで向かってくる。遠目から見てもスタイルの良さが際立っていて、もし周りに女子がいたら、たちまち注目の的になってしまいそう。

「久しぶり」
「あ、どうもです」

 少しぎこちない挨拶になってしまった。この一週間、彼とショートメールでやり取りしたのは一度きり。以降は何の連絡もなかった。そのやり取りも、卯月さんから夕飯の誘いを受けたのに、私はバイトがあるからと断ってしまった。だから少し気まずかったんだけど……卯月さんは気にしていないみたい。

 彼の視線がくまちゃんに向けられる。興味津々といった顔でしゃがみ込み、恐る恐る鼻先に触れている。くまちゃんも卯月さんに対して警戒心を示さず、むしろフレンドリーな様子で尻尾を横に振り始めた。

「朝霧の犬?」
「うん」
「名前は?」
「くまごろう」
「は?」
「くまごろう、です」

 なぜか不満そうな顔をされた。なぜだ。

「変な名前」
「変じゃないよ。ね、くまちゃん」
「わう」

 私の主張に同意するように、くまちゃんが小さく吠える。

「ほらね」

 ドヤ顔で告げれば彼の眉間に皺が寄る。くまちゃんの耳の裏や首回りをくすぐりながら、今度は少しだけ柔らかい表情を見せた。
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