1話

 心の中の声が、さっきまでの幸福感に水を差す。確かに身体は満たされたし、脳が痺れるような快感も鮮明に思い出せる。けれど夜が明けたら、ぽっかりと穴があいたみたいな空虚さに見舞われる。それは今日だけじゃない、いつもこんな調子。
 色んな男の子と夜な夜な遊んで、楽しいひと時を過ごせたとしても、朝になれば隣の温もりは消えてしまう。ずっと一緒にいたいわけじゃないけど、ちょっとだけ虚しい気持ちに苛まれる。何より遊び相手が少なくなってきたことも、孤独に拍車をかけていた。

 大学3年に進級して、今まで遊んでいた子達が遊ぶことをやめた。将来の事を考え始めた。みんなが未来へと突き進んでいるのに、私だけが置いてけぼりな状況に閉塞感を覚える。
 私には将来やりたいこともないし、夢もない。進学したいのか就職したいのかもわからない。それに社会人って、ちょっと怖くて近寄り難い。大人社会へ足を踏み入れる勇気がなかった。

 社会の輪に入りたくない。
 社会人になりたくない。大人になりたくない。
 ずっとこのままでいたい。全部、ただの甘え。
 考えれば考えるほど心が沈んでくる。

 ……そうだ、帰ったら温かい紅茶を淹れよう。そしてちょっとだけ仮眠を取って……いや、待って。明日提出のレポートがあったんだっけ? あ、全然やってない!

 焦りと共に頭の中がぐちゃぐちゃになった。なんで私だけ上手くいかないんだろう。進学とか就活とか、みんなが口にする「普通の未来」がどんどん遠ざかっていく気がして怖い。だからこそ、こうやって即物的な快楽に逃げ込んでしまう。情けない話だ。

「やっぱ、私ってダメ人間なのかな……」

 社会不適合者、って言葉が脳裏をよぎった。ふと涙が出そうになって慌てて瞼をこする。どうやら今朝の私は少し弱っているみたい。
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