2話

『今から来る?』

 簡素すぎるメッセージに喜びが舞う。嬉しさを噛み締めつつも慎重に文字を打った。『あと20分くらいで着きます』と送ってから深呼吸をする。もう一度鏡を覗き込んで前髪を整えた。
 メイクも髪型もバッチリ、服装も問題ない、全身くまなく洗ったしお口のケアも完璧!
 よし、と気合を入れて立ち上がる。アパートの廊下に出れば、冷たい夜風が頬を撫でて体の熱を攫っていく。私はご機嫌よろしく鼻歌を口ずさみながら、トントンッとリズミカルに階段を下りた。

 卯月さんのマンションは徒歩で行ける距離にある。意外と近場に住んでいたことに驚いたけど、今後のことを考えたら好都合かもしれない。
 公園に差し掛かると柔らかな草花の香りがした。周囲はまだ春の名残が漂っていて、独特な夜の匂いが鼻腔をくすぐった。



 ―――大学は華やかな雰囲気に交じり、裏では打算的な恋愛模様が蔓延はびこっている。周囲に群がる男の子達は、まるで飢えた野獣のような目付きで私を見つめる人ばかり。女子は変わらず嫉妬と羨望を混ぜ込んだ視線を向けてくる。そんな環境で他人に心を開くなんて難しいけれど、慣れもあって適応できるようになっていた。

 男の子への苦手意識は、この頃にはだいぶ薄れていたと思う。けれど特別に仲がいい人はいない。そんな時に出会ったのがタケくん。彼の柔らかい物腰と人当たりのいい笑顔に、たくさんの女の子達が絆されてきたんだろう。
 私もそのうちの一人だ。彼とはすぐに仲良くなれた。でも女遊びに長けていたタケくんは、恋愛にも恋人にも興味がない。割り切りの関係だけを望んでいて、私に近づいてきたのもカラダ目的だった。
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