2話

 鏡の前でネイルケアをしながら、ふと自分の姿を眺めてみる。コテで綺麗に巻いた栗色の巻毛が、まるで天使の輪のように輝いている。
 肌は透き通るように白くて、睫毛は生まれつき長くて。極めつけはぱっちり二重のお目々。鼻筋も通っていて、唇も桜色で血色が良い。自分で言うのもなんだけど、誰が見ても美少女と言ってくれる容姿だ。

 ―――これもお母さんのおかげかな?

 女優業をしている母親のDNAを濃厚に受け継いだと確信してる。父親も美形の部類に入るから、二人の素晴らしい遺伝子を引き継いで産まれたのが私。小さい頃は天使だなんて近所でもてはやされたし、母親の写真撮影には毎回呼ばれ、スタッフさん達に可愛がられてきた。

 でも正直、そんな風にお姫様扱いされても嬉しくはなかった。

 外見で注目を浴び続けることは本当にストレスで。男の子からの視線が怖くて、女の子達から投げられる妬みの視線が痛かった。
 小学生の頃までは、教室の隅っこで静かに本を読んでいるタイプ。目立つのを極端に避けていたのに、次第に周囲が放っておかなくなった。

 中学に入ってから状況はさらに加速する。制服姿になって大人びた分、より性的な視線が集まりやすくなったことが原因だと思う。変質者に遭遇する機会も増え、待ち伏せや尾行されることも少なくなかった。外の世界は私にとって鮮やかなものじゃなく、常に疑心の目と得体の知れない恐怖に満ちていた。

 女子からの視線が怖い。男子から注がれる視線も怖い。大人の男の人が近づいてくる気配が怖い。学校にも通学路にも、安心できる場所がどこにもない。唯一安心できるのは、優しい両親が待つお家の中だけ。そんな状況だった。

 そんな私の心境に心を痛めていた母親が、ある提案をしてくれた。

『奈々ちゃん、武術を習ってみたら?』
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