募る想いは果てしなく

繋がる想いも果てしなく



 早坂との交際が始まってから半年が過ぎた。
 彼は今の店舗で、私は異動先の店舗で、お互い新人店長として多忙の日々を送っている。そして同時進行で、結婚準備の話も進めている。交際期間はまだ短いけど、結婚を視野に入れた交際として、お互いの両親には既に挨拶済みだ。

 店長としての経験が浅い私達。正直、結婚はもう少し先の話だと考えていた。店長業務でいっぱいいっぱいな毎日で、将来のことまで思考が回らなかった。
 ……けれど、私の家族が結婚を急かした結果、こうなった。こっちの都合も考えてほしいのに。

 日取りや式場はまだ決まってない。早坂との最近の話題は、結婚式を挙げる時期。忙しさを増すクリスマスや年末年始は避けたいね、なんて言いながら話し合いを続けているけれど。現状、全く話は進展していない。

「6月でしょ」

 電話で母親に相談したら即答された。

「……なんで6月?」

 不満げに訴えても、母は一切怯まない。

「6月と言えばジューンブライドでしょ」
「店が忙しくなる頃だから無理だよ」

 挙式月は慎重に考えなきゃいけない。私達の仕事の都合もあるし、家族やゲストの都合、会場の空いている時期、それらを考慮しながら最適な時期を決めるのはなかなか難しい。

 私達のような職種は、初夏に向かうにつれて集客が伸びてくる。売り上げも伸びてくる。夏季の準備もあって6月はそれなりに忙しい。
 だから夏は避けたいというのが私の考えだったけど、それを告げたところでやっぱり母は引かなかった。

「6月に結婚式なんて女子の憧れじゃない」
「いつの時代の話よ。そもそも梅雨に挙式なんて私は絶対に嫌だから」
「じゃあ、いつがいいの」
「秋」
「秋? なんかパッとしないわね」

 つまらなさそうに言われても困る。結婚をするのは貴方じゃなくて私なんですけど。

「いいじゃん、秋で。秋婚って人気あるんだよ」
「一沙くんは何て言ってるの? ちょっと一沙くんに代わってよ!」
「一沙と話したいだけでしょ……」
「おばあちゃんも一沙くんと話したがってるんだから! アンタだけ独り占めしないの! ほら!」
「……」

 ――プツン。
 無言で通話を切ってやりました。

「うちの家族、一沙好きすぎでしょ……」

 とても恥ずかしい話をすると、うちの家族はスーパーポジティブ一家だ。父親は普通だけど、母親と祖母がパワフルすぎる。イケメン好きの婆がタッグを組んでる状態だ。
 その2人が今、早坂沼にハマってる。結婚の挨拶をしに実家に戻った際、彼に一目惚れしたらしい。以来、この様だ。通話の度に「一沙に代われ」コールが凄まじい。我が身内ながら情けない。

「……両親と話してたのか?」

 ちょうどいいタイミングで早坂……もとい、一沙がバスルームから戻ってきた。
 ビールとスマホを片手に、私の隣に腰を下ろす。改めて見ると、本当に整った顔立ち。母と祖母が惚れこんでしまうのも納得はいく。

 ちなみに北海道旅行も兼ねて、一沙のご家族にも会いに行ってきた。

 一沙の実家は道北地方の豪雪地帯。積雪が凄まじく、まさに極寒の地。右を向けば山、左には海という超絶自然の大地。
 でも道中、リスやらウサギやらキツネ達がコンニチワしてきて、野生動物たちの姿がとても可愛かった。
 こんな大らかな大地で一沙は育ったのだと思うと、なんだか感慨深くなる。彼の心の広さがよくわかる。

 ご両親も私達を温かく出迎えてくれた。ご兄弟が多く、一沙は一番上のお兄ちゃん。まだ高校生の弟くん達も一沙と顔がそっくりで、兄弟仲睦まじい姿に心がほっこりした。
 本当に優しい人達ばかりで、その温厚な人柄も早坂家の血筋なのかな、なんて思った。

 ……なのにうちの家族ときたら。
 ミーハーすぎて本当に恥ずかしい。
 父が唯一まともなのが救い。
 一沙からも「大変だな」と同情された。泣きたい。

「結婚時期の相談してみたんだけど。ジューンブライドを勧められたよ」
「……6月は俺らが厳しいな」
「知ってる。そう言っておいたよ」

 希望は秋婚。それは一沙も同意している。私達の中でベストな時期は10月。繁盛期でもなく、ハロウィンを除けば大きなイベント行事もなく、ゲストにも負担が少なくて参加しやすい月。気候的にも過ごしやすい点も考慮に入れた。

「6月結婚ってまだ流行ってんの?」
「まさか。ジューンブライドなんてもう古いよ。結婚式なんていつでもいいし、なんなら小規模でいい」
「……遥って、結婚に憧れてたって言ってる割には挙式に無関心だな」

 笑い交じりで肩をすくめる一沙に、私もつられて笑みを返す。

「夢見るにはお金掛かりすぎるもん、結婚式って」
「まあな。前準備も大変だし」
「マナーとかしきたりも多いしね」

 そもそも披露宴が苦手。
 あの見世物感がしんどい。

「どうしたって現実的な考えに傾くよな」
「費用を抑えたらクオリティの低くなるし、ゲストの選定だって悩むよね」

 一沙と2人だけでの挙式という形も考えた。今どきっぽいし。
 でも、やっぱり両親を喜ばせてあげたい。感謝の意を伝えたい。だから結婚式は両家を呼んでやろうって決めた。

「まあ、まだ先の話だし。焦る必要もないだろ。ゆっくり考えていけばいい」

 一沙の言葉に私も頷く。
 互いに結婚の意思は強いし、なんだかんだ言っても、2人で未来の話を相談しあう時間は楽しい。ずっと思い描いていた理想が、形になっていくのがわかる。
 辛い時期もあったけど、全部乗り越えてきた今が幸せだと実感してる。
 この先もまだまだ長い人生、この人の隣で寄り添って歩いていけたら。そんな風に思う。

「ね、ビール飲ませて」
「遥はダメ」
「なんで!」
「さっき散々飲んでただろ……今日はもう終わり」

 むう、と私は唇を尖らせる。
 こういう所も変わらず厳しい。
 まだ飲み足りない気分だったのに。

「……かずさクン」
「なに?」
「えっちしよ」

 突拍子もない誘いに、一沙がビールを吹き出しそうになってる。こういう所も変わらない。
 だから、からかいたくなるんだよね。

「私に酒を献上するか、えっちするか選べ」
「選択肢が極端すぎるんだよ」
「で、どっち?」

 一沙の瞳をじっと見上げれば、彼は観念したようにビール缶を置いた。
 そっと私にキスを落とす。ふわっとアルコールの香りがする。ゆっくりとラグの上に倒されて、私は期待に満ちた眼差しで彼を見上げた。

 一沙の瞳に欲情の色を見つけて、ぞくりと肌が粟立つ。もう何度も肌を重ねたのに、何度経験しても胸が高鳴る。
 迫ってくる気配にキスの予感を感じたけれど、私は人差し指を彼の唇に押し当てて制止した。

「ふふっ、だーめ」

 不意にキスを止められて、本人はちょっと不満そう。かわいい。

「一沙ってば、ちょっとお行儀が悪いんじゃない?」
「……は?」
「美味しいものを頂くときは、ちゃんと『いただきます』しなきゃ。ね?」

 悪戯っぽく微笑むと、一沙は子供っぽく拗ねた表情を見せる。
 それが本当に可愛くて。この人の困った顔が本当に好き。普段は大人びていて余裕たっぷりな一沙が、私の前でだけ、こんな風に取り乱した姿を見せてくれるのがたまらない。

「……小悪魔かよ」
「知らなかった?」
「知ってた」

 呆れたようにため息をついて、私を抱き起こしてくれる。そのままベッドへと運ばれた。

 これから訪れる甘い時間に心が躍る。
 今夜はきっと――……ううん、これからもずっと。彼からたくさん愛されるだろうことを願いながら。


fin.
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