背中の距離

 やがて日奈子の呼吸が規則正しいリズムへ変わっても、陸はまだ瞼を閉じていなかった。
 天井を見上げたまま、指先を唇に触れる。
 数分前まで触れていた、彼女の感触を確かめるように。

 日奈子の真っ赤な耳朶。
 熱を帯びた肌。
 白い項。
 細い肩の線。
 全てがこの唇に蘇る。

「……早く準備しろよ」

 誰にも聞こえない声で陸は呟く。
 唇に残る甘さをもう一度確かめたくなる衝動を押し殺しながら――そっと手を下ろした。

 その夜、二人は同じベッドで眠った。
 何事も起こることはなく。
 ただ互いの体温と呼吸だけが、ゆっくりと夜を塗り替えていった。
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